雑談
お久しぶりの更新になります
アカリとの会話が終わると、俺の元にも何人かが押し寄せてきた。代表としてきている人達だからか、暗に自分らの国を贔屓するようにとか、自身の国とも友好を結ぶように言ってくる人らはおらず、本当にただ挨拶をしにきた人たちだった。
「では、私はこれで」
「えぇ、ありがとうございました」
「こちらこそ、鏡魔術師様とお話しできて光栄でした」
そう言って、もう何人目かわからないが挨拶をしにきた人との話を終わる。時間にしてはトータルで一時間も経っていないのだろうが、慣れない貴族との会話は、俺の体力をゴリゴリと削っていき、今にも倒れそうだ。
「つ、疲れる……」
「お疲れ様です、ミラト様」
グッタリとしている俺の横に、いつの間にかリリーが立っていた。その右手には数種類の料理が、シンプルな銀食器に丁寧に取り分けられている。そのお皿に乗っている、一口サイズのパイをリリーは左手で持ち上げると、俺の方に差し出してきた。
「どうぞ、ミラト様」
「ありがとう、リリー」
俺は遠慮することなくリリーの手から一口サイズのパイを食べる。フルーツを使ったパイみたいで、甘酸っぱい果物が体に染み渡る。
他にもリリーはいくつか皿に乗せて持ってきた料理を食べさせてきた。
「全く、人目というものは気にしないのか」
挨拶回りを終えたであろうシンラがこちらに向かって歩いてくる。シンラに言われて周りを見ると、遠巻きに何人かがチラチラとこちらをみていた。どうやら目立ってしまっていたみたいだ。
「まぁ、仲睦まじいことは良いことだがな。 今はまだ婚約者だがいづれ夫婦になるのだろ?」
「まぁ、そのつもり」
「式には呼んでくれよ」
「それはもちろん。 というかさ」
「なんだ?」
「シンラって婚約者とかはいないの?」
「ん? いるぞ」
サラッと、お前は何を言っているんだ?と言った様子で、燻製肉を頬張りながらシンラが答える。
「え?!」
「私は仮にも第一王子だぞ? 婚約者はいるに決まっている」
「えと、その人って……どんな人?」
「私の婚約者はネイシスの友好国のうちの一つの第三王女だ。 お互い忙しくてあまり会えていないが、もう少ししたら交換留学でネイシスに来るはずだ」
「へぇー。 ん? 交換ってことは、ネイシスからは誰か行くんだよね?」
「あぁ。 我が国からは第二王女のカラナ姉さんが行くことになっている」
「え、シンラお姉さんいたの?!」
「あぁ。 カラナ姉さんは私の三歳年上の姉だ。 カラナ姉さんは、私と違って内政の才があるようで、今はネイシスの街の一つを領主として収めている」
「へー」
「ま、機会があれば会えるだろう」
「俺としてはシンラの婚約者の方が気になるけどね」
「そのうちな」
そうしてシンラと雑談を続けていると、いつの間にかお開きの時間になっていた。
俺たちはそれぞれ、用意された部屋に戻っていき、部屋につくや否や、ソファや椅子に座り、くつろいでいる。
「ふぅ……もう食べれないっす……」
「お、おいしかったね」
「レオ、すごい勢いで食べてたね」
「へへっ、美味しくてつい」
「さて、本日の予定が終わったからな、明日からについて軽く話しておこう」
会話が途切れるのを待っていたのか、シンラが切り出す。
「では、飲み物をお入れしますね」
「すまない、頼む」
「皆もいるか?」
「あ、お願い」
「お願いするっす!」
「あ、ありがとうガネス君」
「なぁに、気にするな」
そう言って慣れた手つきで紅茶を注ぐガネス。数分ほど経つと、心地いい香りを漂わせる紅茶が全員の前に置かれる。
シンラはその紅茶を一口のむ。カチャンと食器が触れ合う小さな音が鳴った後、シンラが口を開いた。
「さて、明日からどうするか、何か意見のあるものはいるか?」