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挨拶

(わたくし)、テーラーと申します。 今回の音楽国際交流の本祭にて、合奏の指揮を取らせて頂きます。 どうかお見知りおきを」


 そう言って、丁寧にお辞儀するテーラー。腰まである紺色の長髪が、お辞儀に合わせてサラサラと靡く。


「あ、えとよろしくお願いします? お、俺は」

「鏡魔術師のミラトさんですよね。 噂は予々お聞きしていますよ」

「そ、そうですか……それで、なぜ俺に声をかけたんですか? 代表のシンラなら、あっちにいますが」


 そう言って俺は、今もなお挨拶回りを行なっているシンラを指差す。テーラーは軽く顔を横に振ると、話を続ける。


「いえ、私はミラトさんに用がありまして」

「俺に?」

「はい。 どうにもお仲間が過去にお世話になったみたいで」

「そうなんですね……」

「はい。 なので、一度お話ししてみたかったのです」

「む、そこにいるのはもしかしてテーラーか?」


 突然後ろから声をかけられる。俺たちが振り向くと、そこにいたのは、なんと道中でいざこざのあったアロガンスだった。


「これはこれは、グランヴェ公爵のご子息様ではないですか」

「あぁ、まさかこのような場所で会えようとはな」

「えぇ、奇怪な縁もあるのですね」

「またお主の素晴らしい音楽を聴かせてくれ! 貴殿の音は、なんとも夢の中にいるような心地になるのだよ」

「そう言っていただけると、幸いです。 そのうち、お伺いさせていただきます」

「あぁ、よろしく頼むぞ」


 そう言ってアロガンスは離れていく。というか、あんな風に話すんだな。なんというか、年相応というか、取り繕っていないというか。


「これは失礼しました」

「いえ、大丈夫です……というか、お知り合いだったんですね」

「えぇ、私たち合奏隊は、普段は貴族の方々のもとに赴き、合奏を行なっていますので。 特にグランヴェ公爵家には何度もお伺いさせていただいてます」

「そうなんですね」

「えぇ、よければ後日お聞きになりますか?」

「機会があればお願いします」

「そうですか。 では私はこちらで失礼しますね」


 そう言ってテーラーは離れていった。


「チッ……そう上手く事は運ばないようですね」


 何かテーラーが言った気がするが気のせいだろうか。


「話は終わったようであるか?」


 テーラーが離れた後、また別の人に声をかけられる。というか、一体今日は何回あるんだこれ。俺が声のする方を振り向くと、そこにはあたりの人とは一風変わった服装に身を包んでいる一人の男性がいた。


「拙者はヒモト島国からの使者にして、十二天将の一席を預かる(おおとり)嫡子(ちゃくし)(おおとり)アカリと申す者。 以後お見知り置き願いたく馳せ参じた次第であります」


 そう言いながら、軽く会釈を行なった青年は、俺と同じぐらいの背丈で、赤い長髪を一つに束ねて、和服と呼ばれる変わった服装に身を包んでいる。


「呉宵家の御息女からお話をお聞きもうした! ぜひ拙者にも神器、見せていただきたいのですが!」


 キラキラとした目を、急速に俺の顔の前まで近づけてくるアカリ。俺はあまりの勢いにたじろいでしまった。恨めしそうに遠くにいるトモエの方を見ると、食事を続けていたトモエは俺の視線に気づいたようだが、すぐにバツが悪そうに目を逸らして食事にまた戻る。絶対逃げたな。


「え、えっと今はちょっと……この場で武器を取り出すわけにもいかないので」

「それもそうですな! ではいつ頃が良いかな? そちらに合わせますぞ!」

「そ、そうですね、えっと……」


 終始押されながら話が進み、数日後にまた会う約束をこじつけられてしまった。

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