指名依頼
更新です!
「死傷者ですって?!」
「はい。 これは……まずいことになりました……」
冷や汗をかきながら、近くの紙に無造作に色々と書き殴っていくアストラ。どうやら本当にまずいようだ。
「どうにかして、人員の確保をしなければ……音楽祭の警護の人員の配置を見直して、重要な施設や人たちにランクづけを行って……」
そう言いながら、いろいろな事を書いていく。
「国際音楽交流を延期、或いは中止してはダメなんですか?」
「それは不可能です」
俺の方を見ずにキッパリと即答するアストラ。そのまま理由を話し出す。
「音楽国際交流は、古くよりある文化の一つです。開催国で何か問題があり、音楽国際交流が行われなかった場合、それはその国の沽券に関わります。
ましてや、ここは聖教国サンクチュアリ。 他国との信用と信頼で成り立っていると言っても過言ではありません。 そんな国でもし音楽国際交流ができなかったとなれば、聖教国と、教会の方々の信用は地に落ちるでしょう」
「どうしようもない理由なのに?」
「時に人間は、過程や理由に左右されず、結果だけで物事を決めつけてしまうのです。 どんな理由があろうとも、『音楽国際交流を成功させることができなかった国家』という事実には変わりなく、その事実を、責めてしまうのです」
「そんな……」
「だからこの件は、市民には気づかれずに阻止する必要があります」
そういうと、アストラは一度紙に何かを書くのを辞めて、こちらに向かって歩いてきた。そして、純白の手袋をした手を差し出してくる。
「不躾なお願いであることは重々承知の上で、【鏡帝】鏡魔術師のミラト様に指名依頼をさせてください。 どうか、この危機を乗り越えるために共に暗躍してくださいませんか? 報酬は、私にできることであればなんでもお聞きしましょう」
表情こそみえないが、微かに震える声から如何に真剣なのかが伝わってくる。俺は迷わずその手を取った。
「わかりました。 その依頼、お受けします」
「大変、助かります……」
安堵したような声色を漏らすアストラ。俺はその後、アストラと今後の行動について話した。アストラが先ほど考えをまとめていたこともあり、十数分ほどで一旦どのように行動するかの話し合いは終わった。
「では、私は一度街の様子を確認してきます。 不審な人物や怪しいものを見つけたらお知らせします」
「お願いします。 私は今一度、占星術で何か新しい発見ができないかと、最近の街での情報の精査などを行います」
「国王や、教皇にはお伝えしないのですか?」
「あまりにも情報が少なすぎますので、一旦控えようかと。 今この情報を伝えたところで、彼らの不安を駆り立てるだけです。 そうなれば、市民に察されてもおかしくありません」
「分かりました。 ちなみにこの話を私の友人たちにしても?」
「可能でしたら、手練れの数人に収めてくださると助かります」
なら、リリーは大丈夫かな?
「分かりました。 では一度私はこれで」
「えぇ、受付にはミラト様は無条件で案内するよう、伝えていおきます。 それと」
「なんでしょう?」
「私に畏まるひつようはございません。 同じ依頼をこなす仲間に、遠慮など不要でしょう?」
「はぁ……分かったよ」
「えぇ、どうか神のご加護があなたを導いてくれますように」
俺はアストラと別れて、ギルドの外に出た。どうやら素直には楽しめなさそうだ。
起承転結の起に突入しました! はい、遅くてすみません