表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

240/274

移動中

 俺たちが馬車に乗ると、すぐに馬車は動き出す。ガラガラガラと、車輪の回る音があたりに響く。


「思っていたより広いんですね、この馬車の中」


 開口一番、アリーシアがアレスに問いかける。アレスは想定済みと言わんばかりに間髪入れずに返答する。


「この馬車は多くの教団関係者や、要救助者の搬送などを主に行いますので、内部に空間拡張の効果がある魔法道具(マジックアイテム)となっているのです。 ですが、防衛機能などが一切ついてないので、この馬車を運用するときは護衛が必須となってしまうのが少々難点になります」

「他にはどんな馬車があるんすか?」

「他の用途で使う馬車になりますと、物資搬送用の高速馬車や、要人送迎用の防衛機能付きの馬車などが協会では主に使われています」

「おひとつ質問いいですか?」


 そんな会話をしていると、ガネスが律儀に挙手をする。


「えぇ、構いませんよ。 ガネス殿」

「なぜ、要人を転移魔法などを使用して送迎しないのですか?」


 ガネスの問いに少し考える素振りをしてからアレスは返答した。


「そうですね……では、先に質問を一つ。ガネス殿のお父上は会談の際、転移などをされていきますか?」

「いえ、貴族として面子がありますので」

「それと同じですよ。 私たち教会の要人方も貴族の方々と同じく背負ってるものがございます。 なので、安易に転移はできないのですよ」


 そう言われたガネスは納得がいったようにハッといった表情をする。

「確かに……軽率な質問をいたしました、申し訳ございません」

「いえ、疑問を持つということは学びの兆しです。 お気になさらないでください」


 そういって、頭を下げたガネスに頭を上げるように促す。


「じゃあ俺もアレスさんに一つ聞きたいことがあるんだけど」

「先ほどの件ですね? ミラト様」


 アレスさんは俺の方に顔を向けてきた。


「皆さんにもお話ししましょうか。 まず初めに私は目が見えません。 目隠しをしているからとかではなく本当に失明しています」


 そう言いながらアレスは目隠しを外す。あらわになった灰色の瞳には薄い膜のようなものが張ってあり、焦点もあっていない。そして、両目の周りには複雑な魔法陣が存在している。


「皆様は普通の魔法とは違う魔法をご存知だと思います。 有名なところだと葬り去られた魔法(ロストマジック)禁忌魔法(タブーマジック)ですね」

「ミラトや殿下、リリーシャさんなどがそうでしたわよね?」

「他にも個人が生み出した独自魔法(オリジナルマジック)もそうよね」

「レオノーラ殿に、アリーシア殿のおっしゃる通りです」


 そういうと、アレスは一呼吸おいて再度話し出す。


「私たち五感司教は、教会に伝わる五つの特殊な魔法をそれぞれ受け継いでいます。 それこそが継承魔法トランジションマジックと呼ばれるものです」


 アレスはそう言いながら目隠しを付け直す。


「私の場合は五感のうち、視覚を失っています。その代わり他の四種の感覚機関の精度が常人を遥かに凌ぎます。 さらに、私は肉体から特殊な魔力を元にした音波を発することで、その跳ね返りで相手の輪郭や種族を判別しているのです」


 反響定位(はんきょうていい)と呼ばれる、蝙蝠やイルカなどの生物も行う、視覚に頼らない方法のことだろうか? たしかにそれなら視力がなくても生活は可能だが、それではもう一つ疑問が残る。


「なぜ、ミロの種族が魔龍だとわかったんですか?」

「私が肉体から発している音波はニ種類あるのです。 一つは物体当たった場合に跳ね返ってくる音波です。 そしてもう一つが、魔力を持つ物体に触れた場合に波長を触れた物体と同期させて跳ね返ってくる音波です。 簡単に言えば探知魔法のような物ですね」


 アレスは高精度な探知魔法と例えた。だが魔力由来というならば、魔法が使えない場合はどするのだろうか。

 俺がそんなふうに考えていると、アレスはフフッと軽く微笑んだ後、確認するように問いかけてくる。


「ミラト様はおそらく、魔法消失(アンチマジック)の場合どうするのか、とか思っていますか?」

「よく……分かりましたね?」

「この手の話をすると、よく聞かれるのですよ」


 アレスはにっこりと微笑む。


「問題はありません。 この魔法は教会に身を捧げた物でありながら、生涯該当する五感を失い、さらには独り身であるという制約がある代わりに、魔力妨害を防ぐ効果を持っているのです」

「なんと……そんなことが可能なのですか?!」


 シンラが興奮気味に声を上げる。たしかに国家にとって非常に有益な魔法になるだろう。魔法が使えない環境下で此方だけ相手の位置を知れるなんて、強力なアドバンテージになる。

 そんなシンラの反応を予見してたかのように、アレスは残念そうな声色で首を横に軽く振る。


「残念ですが、私にも原理はわかりません。 詳しいことはわからないのですが、この魔法は数百年前とも数千年前とも言われており、いつからあるのか、誰が生み出したのかもわからない状態なのですよ」

「そうなんですね……」

「さて、私の話は一旦このぐらいにいたしましょうか。 皆さんのお話もぜひお聞かせくださいな。 時間はまだまだあります故」


 そういってアレスは胸の前で手を合わせながらにっこりと微笑んだ。

独自魔法(オリジナルマジック)

個人が生み出した魔法。固有の能力を持ち、本人の世界観の強要による圧倒的な初見殺し性能を持つ

継承魔法トランデションマジック

特定の魔法を適性がない人間にも引き継ぐことができる特殊な性質を兼ね備えた魔法。性能はピンキリで、継承には代償を必要とするものがおおい。

無眼

アレスが継承した継承魔法トランディションマジック

視覚を封じて残りの味覚、聴覚、嗅覚、触覚の四つの感覚の強化、体から2種類の音波を発して、反響定位を可能とする。魔力妨害系に妨害されない特徴を持つ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ