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少女の決心

これで、本編は終わりになります!

 ラービスの復興は順調に進んでいき、既に半分ほどは元に戻っている。本当なら最後まで残って復興の手伝いをしたいが、学園がそろそろ始まるため、俺たちはここを離れることにした。


「ということで、こんなタイミングですが……」

「いいんだよ。 兄ちゃんらのおかげでここまで早く終わったしな」

「それに、頼りきりになっちまったら俺らの面目がねぇしよ」

「あとは大人に任せてくれってんだ」

「皆さん……」


 俺たちがラービスを離れる旨を伝えると、復興を主に取り仕切っていた年配の職人たちは嫌味ひとつ言わずにバシバシと背中を叩きながらそんなことを言ってくれた。


「そうだ兄ちゃん達」

「はい、なんでしょう?」

「今日の夜は空いてるか?」

「えぇ、空いてますが」

「じゃあよ、あんまり大層なことはできないがせめてもの気持ちだ。 一杯行こうじゃねぇか!」


 そう言いながらお酒を飲むジェスチャーをする。周りの職人たちも口々に賛同している。


「分かりました。 ご厚意に預からせていただきます」

「よし、そうと決まったら……お前ら! さっさと今日のノルマを終わらせるぞ!」

「「「「「おう!」」」」」


 職人たちの野太い返事が響き渡る。急に大きな声がしたことで、隣にいるリリーが一瞬ビクッとした。


「では一旦これで失礼します」

「おう、また夜にな!」

「はい」

「失礼します」


 俺とリリーはお辞儀をして、その場を離れた。









「こんなところに呼び出してどうしたの?」


 俺たちは、ラービスを囲う外壁の上で外を見ている少女に声をかけた。


「きてくださいましたか」


 少女はゆっくりとこちらに向き直る。揺れる白髪が太陽を反射し、キラキラと輝く。


「お待ちしていました。 ミラトさん、リリーシャさん」


 そう言いながら少女、アザレアちゃんは滑らかな動作でカーテシーを行う。


「それで、どうしたのアザレアちゃん」

「もうそろそろ、ラービスを発つとお聞きしました。 なのでその前に少し、お話をしたかったのです」


 アザレアちゃんはそう言いながら、外壁の内側、つまりはいま現在復興作業をしている方を見ながら、呟き出す。


「私は、ここから見えるラービスの景色と、微かに響く住民の笑い声が大好きでした。 それを、父様は嬉しそうに語りながら私の頭を撫でてくれたことを、昨日のことのように鮮明に思い出せます」


 寂しそうな声色でそう言うアザレアちゃん。少し間をあけて、こちらに振り返りながら、言葉をつづけた。


「あの時、お二方を傷つけてしまい、本当に申し訳ございませんでした。 謝って許されるものだとは到底思っておりませんが、それでも謝罪をさせてください」

「アザレアちゃん……」

「それと……この街を、父様と母様が愛したこの街と、そこに生きるみなさんを守ってくださり、本当に感謝しています」

「お二人が離れてしまうのは、寂しくないといえば嘘になります。 ですが、きっともう私は大丈夫です。 だって、私のことを愛してくれた父様と母様が残してくれて、ミラトさんとリリーシャさんが守ってくれたこの街があるから」


 アザレアちゃんは一瞬街の方を見たあと、俺たちに向き合いながら言い切った。


「今度は……今度こそは私がこの街を、そこに暮らすみんなを守る番なんだと思います。 それが、この力のある意味なんだと思います」


 アザレアちゃんはそう言いながら、手のひらから小さな花びらを出す。その花びらは特に何かを起こすことなく、風に吹かれて飛んでいく。


「……ぜひまた、ラービスに足を運んでください。 それまでに、よりこの街を素晴らしい物にしますので」


 そう言うアザレアちゃん。その言葉には確かな決心が宿っているような気がした。


「またくるよ、絶対に。 ね、リリー?」

「はい。 またきますよ、アザレアちゃん」

「ありがとうございます。 それと、これはほんの気持ちです。 きっと……いつか役に立つと思います」


 アザレアちゃんはそう言いながら、魔力を込め出す。そして、その手のひらに一つの()()()()()が現れる。


「これは?!」

「ぜひ、受け取ってください」

「そんな、受け取れないよ!」


 アザレアちゃんが差し出してきたのは、あの時に一度だけ見た果実、禁忌の果実そのものだった。


「いいんです。 この果実はまた時間が経てば作れますから」

「だ、だが……」

「お願いします」


 アザレアちゃんは譲る気はないようだった。俺はその果実を受け取ることにした。


「ありがとう、アザレアちゃん」

「いえ、お気になさらないでください」

「それじゃあ、戻ろうか」


 俺たちは外壁から降りようとする。


「すみません。 最後にひとつ、いいですか?」


 それをアザレアちゃんが引き止める。まだなにかあるみたいだ。


「いいよ。 どうしたの?」


 俺はアザレアちゃんの方に向き直る。アザレアちゃんは深く深呼吸を一度してから、口を開いた。


「あなたが好きです。 大好きです」


 アザレアちゃんが穏やかに微笑みながらそう言うと同時に、風が吹き、アザレアちゃんの白髪を揺らす。その様はまるで一枚の名画のように綺麗だった。


「お返事は大丈夫です。 また私から聞きにいきますので」


 そう言うと、アザレアちゃんは俺に歩み寄ってきて、そのまま自然な流れで、俺の()()()()()()()


「あー?!」

「なっ……」


 リリーの絶叫が響き渡る。俺はアザレアちゃんにキスされたところを押さえながら立ち尽くす。満足げに俺から少し距離を取ったアザレアちゃんが、人差し指を口に当てながら言い放つ。


「負けませんよ? リリーシャさん?」


 そう言いながら、いたずらっ子のように年相応に笑うアザレアちゃんは、今まで見た中で一番の笑顔だった。

2022年の12月15日から始まったラービス編本編、これにて終幕です!長い間、お付き合いしてくださり、ありがとうございました!ぜひ、今後も楽しみにしてくださると嬉しいです!

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