心に触れて
今回の話で一応メインの展開は終わりになります。
俺はフラつきながら立ち上がる。そして、黄金の膜に手を伸ばし触れる。
「っ! またか!」
膜に触れた瞬間、バチっと言った音と共に弾かれるような感触に陥る。まるで電気が流れたような、熱と痛みを感じる。
「でも、この程度っ!」
俺はバチバチといった全身を刺すような痛みを堪えながら幕の中に右腕を無理やり差し込む。
「うぁぁぁぁぁ!」
激しい痛みと燃やされていると錯覚するほどの熱さに声を荒げることを抑えきれない。体が本能でこれ以上の進行を阻止しようとする。俺はその本能を意志でねじ伏せて少しづつ歩みを進める。
「うがぁ! っ!あぁぁぁぁぁぁ!」
そして無理やり俺は黄金の膜の中に体の全てを入れる。そして全て体が入ったことで、さらに俺の肉体には別の負荷がかかる。
「う、ぐぅぅ……なん、て濃い魔力だ……」
黄金の膜の中は、とてつもないほどの魔力で満ちていた。並の人間では意識を手放し、歴戦の猛者ですら酔ってしまいそうなほどの、強烈な魔力だ。俺も頭を掴まれながら無造作に脳を揺らされているような感覚に陥っている。
(幸か不幸か、痛みと熱さのおかげで意識を手放さなくて済んでいるが……)
それでも長くは持たない。俺は足を引きずるように少しづつアザレアににじり寄る。数センチほどの距離なのにまるで国を跨いでいるような果てしなさを覚える。それでもにじり寄っていき、ついに俺はアザレアの近くにたどり着く。
「一段と、魔力が濃い……」
俺は左手で口を押さえながら、右手でアザレアに触れる。その瞬間だった。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"!」
頭を割るような今まで一番濃い魔力と、それと同時に心ごと握り潰し、自我を塗りつぶすような激しい自責の念が濁流のように流れ込んでくる。
あまりにもそれは耐え難く、俺はアザレアに触れていた手をはなし、その場で蹲り、口元を押さえながら自分の頭を押さえつける。
先程の痛みや熱とは比べものにならないほどの、まるで魂そのものを削られているような、命をむしり取られているような、そんな、自分の中の形容し難い何かを侵食されているように感じる。
「はぁ、はぁ……! そ、れでも!」
俺はアザレアにもう一度手を伸ばす。腕がひどく震えている。体が、魂が拒絶しているのかもしれない。それでも伸ばし、もう一度、アザレアに触れ、今度はその手を強く握りしめる。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!」
あまりの不快感に離れようとする右手を左手で無理矢理押さえつける。流れ込んでくる負の濁流に抗いながら、声をかける。
「帰ろう! アザレアちゃん!」
俺がそう声をかけると、アザレアの右手が、わずかに動いた。そして、俺に向かって流れていた自責の謝罪は一斉にアザレアに流れ出す。そして、その自責の念は魔力と混ざり合い、ドス黒い魔力の奔流となる。その魔力に触れると、頭に今度は別の負の念が流れてくる。
アザレアは、自分には幸せに、そして生きる資格がないと思っているようだ。だから俺は、それを否定するように叫ぶ。
「君は! 幸せになっていいんだ! これ以上、自分を壊さなくていいんだ!」
ドス黒い魔力の本流の中心に、黄金でも、黒でもない白い魔力がわずかに輝く。だがそれはすぐに覆い隠されてしまった。
「ダメだ! そんな簡単に死ぬことを選んじゃダメだ! 君が死んだら、世界から君のご家族の生きた証まで死んでしまう! 生きること……生き抜くことが、最後に託されたご両親の願いで、一番の幸せのはずじゃないの?!」
この言葉に、淡い魔力は反応した。そして、アザレアがうっすらと目を開ける。しかし、その瞳は虚を見つめている。そして、ゆっくりと、とてもゆっくりと唇が動き出し、小さな声で、されど確かに囁いた。
「…………たす…………けて…………」
俺はドス黒い魔力の奔流に抗うように、もう一度アザレアの手を握りしめて抱き寄せる。
「あぁ! 今度こそ……アザレア、君を助けるよ!」
俺はそう言いながら、抱き寄せたアザレアを抱き抱える。その瞬間、アザレアを覆っていたドス黒い魔力と、黄金の膜がまるで幻だったかのように消え失せた。
うっすらと開いたアザレアの瞳が俺の目を見つめながら、弱々しい声でアザレアが呟く。
「ミ、ミラトさん……」
「おかえり、アザレアちゃん」
「あの、みんなに……わ、、たし……謝らない、と……」
「一緒に、謝ろう? アザレアちゃん」
「ありがとう、ございます……ミラトさん……それ、と、ごめ、んなさい……」
儚げな笑みをアザレアは浮かべ、そしてまた瞳を閉じる。そして、すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。
正直なこと言うと、こう言う改心ルートしか思いつかないぐらいアザレアが強かったです笑
皆さん的に納得は出来ましたか?よければ感想等で教えてください!
それと今回の話の後、一話か二話ほどでこの章のメインは終わります。その後、恒例の閑話を挟み、次の章へ進んでく予定です!