命懸けの賭け
もうそろ終わります!
暴走した神器との戦闘が始まってから数十分が経った。辺りには一般人がいる様子はなく、無事に避難は済んだらしい。
そして、戦闘を続けて分かったことがある。
「まるで、守っているみたいだ」
「ですね」
俺と同じ考えをリリーも抱いているみたいだ。どうもこの神器は驚異的な強度を持っているのにも関わらず、遠方に引いた時には攻撃の手数が圧倒的に少ない。場合によっては蔓や蔦での攻撃ではなく、種を飛ばしたり、葉を飛ばしたりしかしてこない。
そして逆に近づけば近づくほど攻撃は苛烈になっていく。
「もしかして……」
俺は意識のないアザレアのすぐ真上に割れた鏡の欠片を飛ばし、そこから盗賊から取り上げた、ボロボロの長剣を落とす。その刹那、蔓が数十本、蔦が数十本その長剣を攻撃し出し、それと同時に黄金の根がアザレアを包み込んだ。攻撃された長剣は、瞬き一回ほどの時間で、塵と化した。
「間違いない……神器は守っているんだ。 自らの力の供給源になっているアザレアを」
つまり、アザレアを覆っている黄金の膜は、攻撃が通り、さらに言えば、
「唯一の勝ち筋……か」
危険がないことをなんらかの方法で察知したのか、黄金の根はすでに地の底に戻っている。
「……可能性は無きにしも非ず……か」
もし、アザレアの意識を起こすことができればこの神器の暴走も止まるかもしれない。だが、それは憶測の域を出ない。
「ミラト様?」
「いや、ダメだ。 流石に危険すぎるか」
俺は一瞬リリーを見るが、すぐに己の考えを否定する。いくらなんでも確証がないのに、リリーを危険に晒すわけにはいかない。だが、このままジリ貧なのも事実だ。
「ミラト様」
俺が考えていると、リリーが俺の名前を呼ぶ。俺がリリーの方を向くと、そこには覚悟を決めたリリーがいた。
「彼女を、アザレアちゃんはきっとこんなことを望んでないと思います。 アザレアちゃんは、本当は優しい子なんです。 だから、早く助けてあげましょう。 きっと、何か思い浮かんでいるんですよね?」
どうやら俺の考えは筒抜けだったみたいだ。
「あるかないかと言われたら、ある。 しかし……確証はないし、その上リリーを危険に晒すことになる」
「どんな方法なんですか?」
「二人でアザレアの近くまで行き、蔓や蔦をひきつけてもらう。 その間になんとかしてアザレアをあの膜の外に連れ出す。 だがそれでうまくいく確証はないし、さらにはさっきみたいな攻撃を何分も耐えてもらうことになる。 あの一瞬であの威力なら、死んでもおかしくない。 いや、むしろ死ななければ奇跡だと言ってもいい」
「やりましょう」
俺がそう言うと、リリーは即答した。
「聞いてた?! 最悪、死ぬんだ! そしてもし仮説が違ったら、俺は自分を許せなくなる!」
みっともなく、俺は取り乱す。仕方ないじゃないか。 リリーのいない毎日なんて、もう俺には考えられない。
俺の言葉を最後まで、聞いた後、リリーは穏やかな表情を浮かべた。
「今まで、何度もミラト様は自身の身を危険に晒してきました。 その時の私は、何もできなくて悔しかったんです。 だから、お願いします。 私がこれから、自信を持ってミラト様の横に立てるように、私にも命を賭けさせてください」
「リリー……」
「それに、私も結構強いんですよ?」
そう言いながら、腕まくりをする仕草をするリリー。それをみて、俺は一度深く息を吐いた。
「……あぁ、よく知ってるよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
俺はどうやらリリーという女性の強さを見誤っていたみたいだ。俺は大きく息を吸い、吐いた後にアザレアの方を向きながら声をかける。
「チャンスは一度、いいね?」
「はい、問題ないです」
横から返事が聞こえる。
「それと」
「はい?」
「後で言いたいことがあるんだ」
「はい」
「だから、生きて」
「それは、鏡帝の命令ですか?」
「命令? いや、ただのミラトって人間のお願いだよ」
「それなら、聞くしかありませんね」
横から、小さな笑いと共にそう聞こえてくる。その返事を聞いた俺は、つられて小さく笑う。
「彼女を、アザレアを助けるよ」
「はい!」