這いよるもの
まさかのあれが?!
ロストマジックも出てきます。
「え?」
リリーは気づいてなかった!
俺はとっさに重力魔法【重力操作・引】をつかって引き寄せた。すると、黒い塊のようなものが現れた。その塊が出ている間は俺の思い通りに引力を操れる。これも葬り去られた魔法なのだがそんなことは今重要じゃない。
リリーをお姫様抱っこで受け止めると重力魔法を解除してリリーに問いかけた。
「無事か? リリー?!」
「は、はい、何とか」
ならよかった。
俺たちが顔を上げるとそこには俺たちには目もくれず、エルダートレントだった樹木を上っていた。
「な、何だ、あれは……」
そう口に出してしまった。
~数分前~
俺は異常なエルダートレントを見つめていた。おかしい。
「エルダートレントにしては妙に弱弱しい。なんでだ?」
俺が一度見たときはなりたてのエルダートレントだったが、そいつに比べて長い年月生きているはずなのにそいつよりも動きにキレがない。葉もところどころ枯れている。
「それこそ何かに寄生されているんじゃないか?」
と、思い魔力探知をしてみると、案の定、土の奥深くに何かがいた。
「まさかエルダートレントは養分を吸われているのか?」
トレント系の魔物は共通して魔力と養分を混ぜて、隅々まで運ぶ。だがエルダートレントの魔力は養分と共に別の魔力に吸われている。
「これはもしかしてやばいのか?」
俺は何かあったときのために魔力をため始めた。
そして、冒頭に戻る。
「あれは蝉の幼虫……なのか?」
土から這い出てきた生き物は蝉の幼虫に似ていた。
なぜ似ていたと表現したのかというとまずはとにかくでかい。二メートルはありそうだ。さらにはしがみつく爪は四本、体のあちこちが槍のようにとんがっている。
「ミラト様……まさかですがあの幼虫、羽化しようとしていませんか?」
と、リリーが言ったとたん、それを裏付けるように幼虫の背中が割れ始めた。
「あれはまずい!」
俺は、リリーを抱きかかえながら【|嵐刃《テンペストエッジ】を、放った。
だが……
ガキン!
と、音を立ててはじかれてしまった。
「くっ、なんて硬さだ!」
俺はさらに強力な魔法を使うため、リリーをおろして、【記憶の鏡】の中から魔法を探していたが……間に合わなかった。
「ブブブブブブブブブブブブ!!」
と、空気を震わすような羽音をったてて、一匹の巨大な虫が俺たちを見下ろしていた。
「まさか……乱風蝉……か?」
それを肯定するかのように蝉は羽音を辺りに響かす。
「ブブブブブブブブブ!!」
「うわっ!」
それに伴って衝撃波が俺たちを襲った。
《乱風蝉》……炎狼と同じ、討伐推奨レベルSに分類される魔物。
そのいくつもある目が妖しく光ったと同時に戦いは始まった。
討伐推奨レベルS!
炎に続いて今度は風ときました!
こうご期待です!