本質
今回話は進みません。同時刻に起きた、どこかでの出来事と、アザレア視点での前話の進み方となります。どうかお付き合い、お願いします。
また、後書きに若干のネタバレとも受け取れる事を書くので、嫌な方は飛ばしてください。
内容としては、アザレアや、地の文での口調の変化についてになります。
〜???視点〜
「それにしても、君がしくじるなんて久しぶりに見たよ」
真っ暗な空間からそんな声が響く。声の様子から青年であると予想できる。
「弁明のしようもございません。 いかような処罰でも、うける所存です」
そう言って、執事服に身を包んだ老人は深々と頭を下げる。その老人に向かい、手を払うような仕草をしながら、青年はいう。
「そんなことはしないさ。 君と僕はたった二人の死に損ないなんだからね」
「左様ですか……」
「でもまぁ、あの神器が欲しかったのは事実だけどね」
うーんと唸りながら青年がそうこぼす。
「確か名は禁忌の果実だと記憶しております」
「そ。 効果も一緒に使える魔法も強力ではあるんだけどさ」
そう言いながら、青年は立ち上がり、窓の方に向かって歩いていった。閉ざされていたカーテンをあけ、窓に背を向けるようにもたれかかる。
淡い月明かりが部屋の中に差し込み、青年の輪郭をぼんやりと映し出す。そしてその手には、一本の錫杖が握られている。
「神器の覚醒条件がこいつと似てるってところが、興味深かったんだよね」
シャランと、手に持っている錫杖を鳴らす青年。その錫杖は、一見するとただの黒と紫を主とした何の変哲もないものだが、あまりにも異質すぎる負の念のような雰囲気を放っている。
「似ている、というのは?」
「禁忌の果実。その発芽条件はね、所有者の莫大な負の念だよ」
声からわかるほど、青年は楽しそうに話す。
「嫉妬や自責。 悲哀に殺意。 種類は何でもいい。ただ、醜ければ醜いほど、果実は早く育つんだよ。 あの果実は、まるで、人の負の感情を凝縮したような物だよ。 その点、こいつも同じ、負の感情が集まってできてるんだ。まぁ、こいつの場合は所有者以外の負の念も取り込んでるけどね」
「そうでしたか……」
「まぁ、すぎたことは仕方ない。 あの果実が発芽するのをのんびりと待てばいい。 君と僕は死にたくても死ねないのだから」
「……そうですね」
「あぁ、そういえば君って呼ばれるのは好きじゃないんだっけ。 ごめんごめん」
おちゃらけた様子で執事服に身を包んだ老人の横まで行き、肩に手を置きながら囁いた。
「何百年の付き合いじゃないか、許しておくれ。 な? ロスティトリア?」
「私に拒否権はございません、殿下」
「今の僕は王子でも何でもないさ。 さっき行ったろ? ただの死に損ないさ」
「でしたらこのおいぼれも、お付き合いいたします」
「それは頼もしいね」
青年はいたずらっ子のような顔をしながら、呟いた。
「精々、発芽させてくれよ。 そして……その身を力に委ねて堕ちてくれ」
そういうと、青年とロスティトリアの気配が一瞬にして消えた。後には、カーテンの開けられてた部屋と、不気味なまでの静寂だけが残った。
〜アザレア視点〜
あぁ、なんて心地がいいの。今なら、何でもできる気がする。この力があれば何でも夢が叶う。これならきっと……きっとミラトさんも! そう、思っていたのに。
「なんで……なんでなんで?!」
なんで死んでくれないの?! 何で、思い通りにいかないの?! だって私は、特別な力を持って、選ばれて、神器を開花させた唯一の……唯一の存在なのに!
「貴方が葬り去られた魔法が使えるように、私も使えるんです。 葬り去られた魔法の白銀魔法を」
リリーシャからはそうかえってきた。
じゃあ、選ばれたのは私だけじゃない? 私じゃなくてもいい? そんな、そんなのは嫌、認めたくない。
「そんな、なんで、どうして……私と同じ……そんな、そんな、じゃあ……じゃあ!」
気づけば私は大声を上げていた。呼応するように、魔法が連続で展開される。そしてその魔法は辺りを見境無く攻撃する。
「私と同じなんて、認めない! 絶対に!」
私は選ばれたの、優れてるの、だからだからだからだから!
「認めない認めない認めない認めない認めない!」
私と同じだなんて、認めたくない!
「落ち着いて! アザレアちゃん!」
ミラトさんの声が聞こえてくる。でもこれだけは認めれないの。特別な私じゃないと、また一人になってしまうから。一人になって、またあんな思いをするのだけは……だけは
「いやよ、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」
止まれない。いや、止まりたくない。止まったら私は、きっと考えてしまうから。今は身を委ねていたいの、この感情に、この溢れる力に!
ミラトさんが何か言っているが、聞きたくない、聞きたくないの!
止まって一人には絶対になりたくないの! 思い出すだけで、私はもう吐きそう。常に好奇の目を感じ、それが敵か味方かわからない。食べ物ですら、毒なのか違うのかを考える、そんな事を想像する……
「いや、いやいやいやいやいやいやぁぁぁぁぁぁぁあ!」
もう絶対嫌!
そうして、どのぐらいかはわからないけど、時間は過ぎていった。
「もう大して魔力は残ってない。 終わりにしよう、アザレアちゃん」
ミラトさんの言う通り、魔力はほとんど残ってはない。でも、だからといって諦めたくはない……。その時だった。
モゴッとなにかが……いや、神器が私の中で動いた。さして私は本能で知った。
「フフ、フフフ……まだ……まだ、終わりなんかじゃありませんよ……」
残った魔力を右手にかき集める。
そうよ、私にはこれが、神器がある! 私は神器を……神器を、使いこなせるのよ!
「みて、ミラトさん。 私ね、使いこなせるように成ったんだよ?」
私の魔力に呼応して、黄金の枝葉が伸びる。そして私の顔の高さまで伸びると、一つの果実を生み出した。黄金と紫色が混ざった、神秘的で、美しく、不思議な魅力を放つ、素敵な果実。
「これ、なんだと思いますか?」
「なんだって……言われても、果実にしか……」
「半分正解で、半分、間違い。 これは禁忌の果実 。 ミラトさんは一度、見てますよ?」
「見ている……? はっ?! まさか、それは?!」
「そうです。 あの時の……神器です」
手に取るだけで、高揚感が抑えられない。あぁ、なんて素晴らしいの。私は堪えきれずその場でくるりと回り、そして果実を一口齧る。
その瞬間、内側から溢れんばかりの魔力が湧き出てくる。
(あぁ、本当になんでも、何でも出来そうな気分だわ!)
そうよ、まだ焦るときじゃない。最後にミラトさんを手に入れられたら、それまでの過程は細事に過ぎないのだから。
「さぁ、まだまだ甘い蜜月の時を過ごしましょ?」
私はミラトさんに向けて、微笑んだ。
地の文でアザレアちゃんと書いていたものをアザレアと変化していますが、それはアザレアが敵対した為、敵と判断してるからになります。
また、アザレアの口調や様子、明らかに異常なのは、負の念に乗っ取られて、リミッターがイカれたからになります。詳しくは今後、ストーリーで明かします。