発芽
今回神器の解説を後書きにします。あと、新しい用語も出てきます
アザレアの魔法がリリーを覆った。だがその次の瞬間、その炎は打ち消された。
「なっ?!」
炎の中からは大華主による白銀の鎧を身にまとったリリーが現れた。
「間に合って良かったです……」
「なんで……なんでなんで?!」
気が動転したように、大声で叫喚するアザレア。リリーは淡々と応える。
「貴方が葬り去られた魔法が使えるように、私も使えるんです。 葬り去られた魔法の白銀魔法を」
それを聞いたアザレアは頭を抑えながらうずくまるような体勢で呟き出した。
「そんな、なんで、どうして……私と同じ……そんな、そんな、じゃあ……じゃあ!」
怯えるような、自分に言い聞かせているような、そんな様子でいたアザレアだが、大きな声を上げるとともに、無数の魔法を展開し始めた。
「私と同じなんて、認めない! 絶対に!」
濃密な魔力が、アザレアの咆哮とともに解放され、無数の棘のついた蔓や蔦、地下室でサマリに向かって使った魔法が無作為かつ無造作に当たりを攻撃し始めた。
「認めない認めない認めない認めない認めない!」
「落ち着いて! アザレアちゃん!」
「いやよ、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」
辺りの建物が粉々になっても、アザレアは止まらない。まさに数の暴力というにふさわしい攻撃だが、もちろんその分魔力は消費している。こうなれば、魔力切れで気を失ったところを保護した方が早いのかもしれない。
「リリー!」
俺が名前を呼ぶだけで、一瞬こちらを向いたリリーは何かを察したかのように頷く。そして、展開していた大華主を薄く広げて、盾のようにして攻撃を受ける。
「もうやめよう! アザレアちゃん!」
「いや、いやいやいやいやいやいやぁぁぁぁぁぁぁあ!」
アザレアはオレの声を聞かずに魔法の乱射をやめない。周囲のあらゆる所が、穴だらけになっている。オレ自身も自分が貫かれないようにするので精一杯だ。
「っ、長いな……」
かれこれ十分はこの状態な気がする。だが確実にアザレアは魔力を消費しているようで、最初に比べて、魔法の威力も数も減少している。
「もう、少し……」
「はぁはぁ……」
そして数分後には、アザレアの魔法の猛攻は止まった。俺はそのチャンスを逃さず、アザレアの方に近づいた。アザレアは呼吸を整えながら、あからさまに自分の手のひらに魔力を流した。
「もう大して魔力は残ってない。 終わりにしよう、アザレアちゃん」
「フフ、フフフ……まだ……まだ、終わりなんかじゃありませんよ……」
「何を、するつもりなんだ?」
「みて、ミラトさん。 私ね、使いこなせるように成ったんだよ?」
「使いこなせるように? 何を……」
「これ」
そういうと、アザレアの手のひらから黄金色の芽が生えた。そしてスルスルと伸びていき、そしてアザレアの顔ぐらいの高さまで止まると、その先に一つの果実が生った。
紫と黄金が混ざったような、煌びやかなのに、どこか異質で、どこか神聖さを感じる不思議な果実だ。アザレアはその果実をもぎ取ると、妖しい笑顔を浮かべながら、聞いてきた。
「これ、なんだと思いますか?」
「なんだって……言われても、果実にしか……」
「半分正解で、半分、間違い。 これは禁忌の果実。 ミラトさんは一度、見てますよ?」
「見ている……? はっ?! まさか、それは?!」
「そうです。 あの時の……神器です」
その場でクルリと一回転した後、アザレアはその果実を徐ろに一口齧る。その瞬間、見てわかるほど、アザレアの魔力が急速に回復していった。
「さぁ、まだまだ甘い蜜月の時を過ごしましょ?」
瞳から淡い黄金を放ちながら、妖しく、そして艶やかにアザレアが微笑んだ。
神器 【禁忌の果実】
花魔法に付随している、特殊な寄生型の神器。神器が先か、魔法が先か、その真相は謎である。
見た目は黄金色の枝や葉、作中でも言及したように黄金色と紫が混ざったような果実。現実でいう林檎に近い見た目。
おまけ効果で、覚醒時に花魔法の威力と強度の底上げ、術者を守るための棘が無数についた蔓や蔦を生成することができる。
持ちうる能力は【神性付与】
生成された果実を元に武具を製作した場合、擬似神器状態の武具を生成することができる。
(擬似神器とは、神器には劣るものの、近しい性質や、その系譜に連なる武具のことを指す)
また、食した場合、あらゆる損傷を一時的に回復(魔力の消費も損傷とみなし、回復する)、食者の肉体と、使用する魔法の威力や効果、範囲などを底上げする。効果が切れるまでの間は何度でも魔力等は回復する。