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「フフ、フフフ……そうよ、そうよアザレア。 最初からこうすればよかったのよ。 こうすれば、もうどこにも……」


 アザレアが一人で呟いている声が聞こえてくる。俺は雪月花で、周りを覆っている黒い光を切り払った。


「ミラト様!」

「あら、出てきちゃいましたか?」

「一体、どうしちゃったんだ、アザレアちゃん!」


 俺が自らの魔法を破ったことに少し驚いた様子のアザレア。


「どうしたって、もう我慢しないって決めただけですよ? ミラトさん、あなたを永遠に私のものにするために」


 悪びれる様子もなく、さも当たり前のことかのように言い放つアザレア。


「悪いけど、少し手荒に止めさせて貰うよ、アザレアちゃん」

「できるのでしたら、どうぞ?」


 余裕綽々に答えるアザレア。今まで自責に駆られていた少女とは思えない、余裕を感じる。


「刀術【峰打(みねうち)】」


 雪月花の峰でアザレアを気絶させようとする。その瞬間、先ほど俺を覆った光が、今度はアザレアを覆い、アザレアのことを守った。

 そしてまるで反撃するように、光の中から、数本の棘の生えた蔓が襲いかかってきた。


「なっ?!」


 襲いかかってきた蔦を雪月花で斬りつけたが、()()()()()()


「これなら!」


 弾かれた衝撃を利用し、一旦距離を取る。蔓は依然として襲いかかってきた。今度は魔力を流し、神器、雪月花の本来の切れ味を発揮させながら斬りつける。


「嘘だろ?」


 魔力を流した雪月花でさえ、完全に切断することが出来なかった。


「これが花魔法本来の力、ですよ?」


 そう言いながら、アザレアを覆っていた黒い光が晴れていった。


「姿が変わった……?」


 光の中から現れたアザレアの綺麗な純白の長髪は漆黒に染まり、黒いドレスを纏っている。そして何より、背丈が伸びており、リリーと同じ位ぐらいの背丈になっている。


「花魔法【(貴方をこ)(んなにも)(愛してる)】!」


 アザレアの声と共に黒百合の花が至る所に無造作に現れる。そして黒百合から、まるでスポットライトのようなモヤが出てくると、そのモヤに触れた場所が溶けながら抉れていった。


「なんだあれ?!」

「ふふふ、逃しませんよ?」


 黒百合の攻撃を避けた先に、先程の蔓が何本も襲ってくる。


「っ!」


 先程、切断することが難しいはわかっている為、雪月花で受け流す。


「もっと……! もっと楽しみましょ! 」


 その様子を楽しそうに見ているアザレア。


「氷魔法【氷剣(アイスソード)】!」


 リリーの五本の氷剣をアザレアに向かって放つ。


「花魔法【ハナミズキ(私は私を守る)


 氷剣はアザレアのだした花に触れると粉々に砕けた。


「こんな小細工で私とミラトさんの邪魔をしないで……」

「油断大敵ですよ?」


 粉々に砕けた氷剣を囮にリリーがアザレアの裏を取り、対の双剣で斬り掛かる。


「っ! 花魔法【フウセンカズラ(空駆ける事を夢見る)】」


 リリーの攻撃が当たる直前に新たな花魔法を発動させ、小さな白い花がアザレアの体の周りに咲き、その瞬間、アザレアの体が中に浮いた。


「リリーシャさん……私は……私は貴方が妬ましい!」

「私の事が、妬ましい……?」

「えぇ! ミラトさんの寵愛を受け、共にいれることが! 私は、私はとても羨ましい! だから! 今日、ここでミラトさんを手に入れ、永遠に私の側に!」

「アザレアちゃん……」

「私の……私の名前を! 貴方が呼ばないで! 花魔法【シクラ(嫉妬が貴方の)メン(身を焦がす)】!」



「しまっ!」

「リリー?!」


 リリーの足元から数十本を超える深紅のシクラメンの花が咲き出す。そして、一枚、また一枚と花弁が燃え出し、瞬く間に炎が纏わり付くようにリリーを包んだ。

刀術峰打(みねうち)

刀の峰で斬りつける、気絶を目的とした技。強すぎると殺してしまうため意外と難易度の高い技


(貴方をこ)(んなにも)(愛してる)

黒い花弁を持つ花を生み出し、そこからスポットライトのように黒いモヤを発する。そのモヤに触れると、まるで溶けたかのように抉り取る。


ハナミズキ(私は私を守る)

過去に使った魔法と同じだが、読み方が変わってるため記載


フウセンカズラ(空駆ける事を夢見る)


十字型の白い四枚の花弁と、その中心に黄色い花柱を持つ花。細い蔓で巻き付いた物を空に浮かばせる。小さな花を破壊されると落下してしまう


シクラ(嫉妬が貴方の)メン(身を焦がす)


赤い花弁を持つ花を密集させて咲かす。術発動者以外の魔力に触れると、花弁が少しずつ燃えていき、燃える要因となった魔力の持ち主を炎が包みだす。炎に弱い花魔法の中で、かなり珍しい炎を扱う魔法。

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