諸刃の技
ようやくこの章の本編に入れます……本当に筆が遅くてすみません
また、花魔法が出てきますので、興味がある方は自分で一度調べてください。私の分より写真を見た方がわかりやすいです()
「さぁ、死んでください。 愚かな正義感に駆られた哀れな哀れな鏡魔術師よ」
「それは……どうかなっ!」
「その様子で一体何をするおつもりで? 理想論を口にするには少し遅いのですよ」
冷ややかな視線を俺に送りながら、動かせる糸全てを俺に向けてきた。
「ミラト様?!」
「……【転写の鏡】」
俺がそう呟いた瞬間、一枚の鏡が現れた。勢いをつけていたロスティトリアは勢いを殺しきれず、俺の出した鏡に触れてしまった。
「グハッ?!」
鏡に触れた瞬間、ロスティトリアの全身の俺と同じ箇所に俺と全く同じ傷が現れた。
「い、一体何が……ガハッ!」
唐突に激しい出血と痛みに襲われたロスティトリアは、その場で膝を折った。その衝撃で、俺に向けられた糸を含め、すべての糸がだらりとたれ、制御を失った。
「油断……したな」
俺は、片手で雪月花を持ち上げると、その切先を膝を折った状態のロスティトリアに向けた。
「……」
「何か、言ったらどうだ?」
「引き際……ですかね」
「何?」
「与えられた任務を果たせない屈辱はありますが、それも命あってこそ。 今回は私の負けです。 大人しくアザレアからは手を引きましょう」
「そんなことをさせる訳が!」
「無駄ですよ」
「な?!」
俺が雪月花を振り下ろした瞬間、ロスティトリアの体を模るように結界が現れた。
「あの者の力を使うのは気に入りませんが……」
「あの者……?」
「いえ、こちらの話ですので。 では失礼いたしますね、鏡魔術師のミラト=スペクルム殿?」
ロスティトリアがそういうと、彼の足元に魔法陣が現れた。
「お、お待ちくだされ!! バ、バラート! い、いやロスティトリア様?!」
「そういえばいましたね、貴方」
ロスティトリアが逃げるのを察したのか、物陰で震えていたサマリが大急ぎで出てきた。
「わ、私はどうすれば?! あなた様の言うとおりにすれば、あなた様直属の配下にしていただけると言って頂いたから! 兄の屋敷に火を放ち、我が一族が代々継いでいる葬り去られし魔法のこともお伝えしたのですぞ?!」
と自分の口から言い放つサマリ。それを聞いていたアザレアがサマリのことを睨みつけるが、全く気にする様子はない。そして、サマリに対して、ため息をひとつ吐いた後にロスティトリアは言い放った。
「こうなった時点で私に勝機はないに等しいのです。 なので貴方を利用する必要も無くなった、それだけですよ」
「な?! それはあまりにも不義理ではないのですか?!」
「何を言っているのですか? 貴方は家畜に対して憐れみや同情をしますか? 貴方は、私にとってその程度でしか無いのですよ」
「そ、そんな……そ、そんなことが許されるはずが……」
「同やら準備が整った様ですね」
「待て?! 逃すわけには!」
俺はもう一度、雪月花を振り下した。その瞬間、ロスティトリアが魔法陣の中に沈んで行き、代わりに魔法陣から光沢のある鱗を纏った腕が出てきた。その腕をスルリと切り裂いた雪月花だったが、当たった時の衝撃で僅かに軌道がずれ、ロスティトリアには当たらなかった。
「フフ、お手数をおかけしますよ、クレイア」
「本当にお手数でして? ロスティ」
魔法陣から若い女性の声が聞こえてきた。そして、俺はロスティトリアが言った名前に心当たりがあった。
「クレイアって……まさか、【使者】?!」
「あら、私のことをご存知みたいなのね。 素敵なお声の殿方?」
「彼が例の鏡魔術師ですよ、クレイア」
「まぁ、そうなのね。 一度、その顔を拝見してみたい気持ちに襲われていますが、今回はロスティの回収が最優先事項ですので我慢いたしますわ」
首より下が魔法陣に沈んだあたりで、ロスティトリアは俺の方を見ながら言った。
「今回は貴方の勝ちです、ミラト殿。 ですが、この屈辱は必ず晴させて頂きますよ? 私の剣に誓って」
「さて、あんたたち、存分に暴れなさい」
そう言いながら魔法陣に沈んでいくロスティトリアと、入れ違いで十数体の魔物が現れた。その魔物たちはクレイアの命令に従い、見境なしに暴れ出した。
「「「グルゥゥゥゥゥア!」」」
「「「アォォォォン!」」」
「「「「キシャァァァァア!」」」」
魔物たちが現れ切ると同時に魔法陣は消えてしまった。
「く、くるなぁぁぁぁぁあ!」
魔物たちは数匹が俺に向かってきたが、残りの全てがサマリの方に向かっていった。サマリは煌びやかに装飾された剣を無造作に振り回すが、魔物たちに傷をつけることはおろか、余計に注意を引いている。
「た、たたたああ助けてくれぇぇぇえ!」
そう大声で叫ぶサマリ。今死なれては困るが、数体の魔物が俺に迫ってきている。この傷だと、どう頑張っても数十秒はかかってしまう。そして、それだけの時間が経てば、サマリは簡単に死ぬだろう。
「くそっ! 最後まで厄介なことを!」
俺が、迫り来る魔物の一体を雪月花の横なぎで切り払いながら、サマリの方を見た。まずい、もう間に合わない。
「あぁぁぁぁぁああ!」
サマリに魔物の爪が振り下ろされる瞬間、アザレアの声が響いた。
「花魔法【テッセン】」
その瞬間、魔物たちの足元に白く、手のひらに収まる程度の花が現れた。その花は地面から数十本にも及ぶ蔓を生やし、サマリに襲い掛かろうとした魔物たちに絡みつくと、その動きをピタリと止めた。抜け出そうともがいているが、全く動かない。
「花魔法【スノードロップ】」
アザレアがそう言い放つと、魔物たちの頭上に、丸みを帯びた、白い花が現れた。その花たちはゆっくりと落ちていき、魔物たちに触れる。その瞬間、魔物たちは花の触れた位置から、段々と雪像に変化していき、最後まで雪像に変化すると、蔓の締め付けに耐えきれず瓦解して行った。
転写の鏡
ミラトが鏡魔術師に待ってから生み出した、新たなスキル。まだまだ完成度が低く、自らの肉体の傷を、鏡に触れた相手に転写するという、自らが傷つくことが前提のスキル。
大型相互転移陣
クレミアが使った、ロスティトリアを回収するときに使った魔法陣。特定の目印があるものに限るが、目印があるもの同士の位置を入れ替える大きな転移陣を発生させる。入れ替えるものの規模や大きさによって、転移にかかる時間が変化する
テッセン
手のひらに収まるサイズの白い花。五枚の花弁と、黒い花柱を持つ。その花は対象者の足元に咲くと、強固な蔓を使って対象者を縛り付ける。抜けようともがいても、その振動を蔓をつたって地面に逃がすため、抜け出すのは非常に困難である。
|スノードロップ《私はあなたの死を望みます》
小さな白く、丸みを帯びた花。触れた生き物を、雪像へと変えていき、雪像に変化し切ると、まるで雪のように溶けていいく