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滅びた国

今回2話分ほどの文字数になっています!少し多いです!

 アーレインは剣と盾をひくと、その場で立ち尽くしながら話し出した。いや、漏れ出たというべきか。片言言葉のため言っていることはわからなかった。だが、彼の放つ負のオーラを伝って、俺に彼の記憶と憎しみや苦しみが伝わってきた。










 〜アーレインの記憶〜


 私はとある小国、【レスシティカ】の騎士団の団長を務めている。この時代の国は小国がひしめき合い、数年に一度、国ができては国がなくなるなんてことはザラにあった。

 そんな時代の流れの中で、この国は小国には珍しく、数十年の歴史をもつ。それも全て、建国当時からこの国を守護してきたとされている神器、【浄魂集い之錫杖(ヒトアツメ)】のおかげとされている。さらにレスシティカは周囲の中小国家と同盟を結ぶことで、互いに不可侵であり、攻められた場合にはお互いに協力し合うことで大国とも対等に渡り合ってきた。


「団長、おはようございます!」

「「「「「おはようございます!」」」」」

「あぁ、おはよう。 今日も平和に感謝を」


 俺は横を通り過ぎていった団員たちと挨拶を交わした。何気ない日々。 それがこの時代は何よりも大切だったし、それを守るのが俺たち騎士団の仕事だ。そしてこの職業は、俺にとって何物にも変え難い誇りだった。










「な、なぜ……なぜだ?!」


 そんな平和な日は突如として崩壊した。同盟を結んだはずの周囲の国の兵が攻めてきたのだ。


「なぜだ?! 我々は同盟を結んでいたではないのか?!」


 俺はレスシティカの東側に隣接している国家、【ビトゥレイアル】の兵を盾で弾きながら、声を荒げながら問いかけた。すでに敵兵は王のいる部屋につながる通路まで攻め入ってきていた。


「不義理なことをしているのは重々承知だ……アーレイン殿。 だが我らとて母国に命を捧げた騎士である。 国が戦えというのなら、我々は戦うしかないのだ」

「あなたは……ビトゥレイアル兵団長、アゴニー兵団長……」


 兵をかき分けて現れたのはビトゥレイアルの兵団長だった。彼は持っている槍を固く握りしめ、悔しそうな表情を浮かべている。


「なぜだ?! 我々は特に交流の深かった国家であったではないか?! なのに何故、何故我が国を襲うのだ?!」

「我等が王が……お決めになったのだ」

「何を戯言を?! ビトゥレイアルの王は聡明で思慮深い、まさに模範たる王だ! その王がこのような蛮行を行うことなど……」

「民の! 民の命を……人質にされたのだ……」

「な、何を言って……」

「我ら両国に面している大国、軍事国家カルフィスによって、自国の民を人質にされたのだ……」


 アゴニーの顔はひどく歪んでおり、槍を固く握る手からは血が滲んでいた。


「最初は我が王も拒んだのだ。 だが段々と交渉は強迫になっていき、ついには地方の村から行方不明者が現れ出したのだ。 王は自国の民を守るため、断腸の思いでカルフィスの要請を承認なさったのだ……」


 軍事国家カルフィスとはその名の通り軍事に特化した大国である。周囲の国を襲っては降伏させ、取り込むことでだんだんと名を上げた国家だ。我々の同盟の兵士全てでカルフィスの兵と同等と言われるほど軍事力が飛び抜けており、その兵力を我々同盟ではなく一国に向けられたら確かになす術もないのだろう。


「何故カルフィスは我が国を……」

「おそらくだが、貴国の所有する神器であろう……軍事国家カルフィスにとって貴国の神器は喉から手が出るほど欲するものなのだろう」

「……理由は相分かった。 貴殿の心中お察しする。 だが、だからと言ってここを通すわけにはいかぬ! ここから先は我らが王の御前である。 我が命をかけてでもここは死守させてもらう!」


 俺は王より賜った魔剣【ヒート】を発動させて構えた。


「うぉぉぉぉぉぉぉお!」


 俺が走ってもなお、アゴニー兵団長は槍を構えなかった。彼に剣が届く直前、まるでそこに鉄があるような、ガキンという音を響かせながら防がれた。


「な?!」

「いやぁ怖い怖い。 さすが炎熱騎士の二つ名を持つ騎士団長様だ。 まぁ当たらなきゃ意味無いけどねぇ」


 アゴニー兵団長の後ろから、カルフィスの軍服に身を包んだ男が現れた。


「何者?!」

「僕かい? いいよ教えてあげよう! 僕は軍事国家カルフィス、第四部隊部隊長ジャックというものさ」


 ジャックと名乗った男は自信満々に語り出した。


「貴様、何をした?!」

「僕ってあまり戦闘は得意じゃ無いんだけどさ、唯一得意なものがあるんだよねぇ」


 彼はアゴニー兵団長を押しのけながら前に出てきた。


「結界魔法って知ってるかい? それが君の剣を止めた魔法の正体さ」

「結界魔法だと?!」

「レスシティカを攻める際に危険視された人物は二人、元近衛兵隊長のロスティトリアと、炎熱騎士、つまり君さ」

「貴様何を言って……」

「そこで我々はどうするかを考えたのさ! そして導き出した答えが……」


 ジャックはその場でくるりとターンをして、あからさまに俺を小馬鹿にしたようなポーズをとりながら言い放った。


「友好国の兵を使い時間を稼ぐ。 そしてその時間稼ぎののち、結界魔法にて君自身を閉じ込めるのさ」

「な、まさか?!」

「わかったかなぁ? だがもう遅い。 君はもうなにもできない! 守るべき騎士団長が、何も! 何も守れないのさ! あぁ実に惨め! 実に滑稽!君は生きているのに、君の主人は惨たらしく死ぬのさ! はーはっはっはっ!」

「貴様ぁぁぁああ!」

「足掻くだけ足掻くがいいさ! どうせ君は何もできないのだから!」


 そう言い残してジャックは俺の横を通り出した。それを阻止すべく持っていた魔剣を横なぎに振るったが、結界に阻まれて

 ジャックには届かなかった。


 そして、二日もしないうちに、レスシティカは地図と人々歴史から消え去った。










 〜ミラト視点〜


 なんとなく分かった。きっと彼は、自らの国を滅ぼしたものたちと、騎士団長でありながら守れなかった自分自身に対して強く、渦巻く激しい負の念を抱いたのだろう。そしてその結果、


「人間でありながら魔物化したのか……あの仮説の通りに……」


 人間が人間のまま魔物化したのであれば、名有り(ネームド)であることにも納得がいく。そしてそれと同時に同情せざるを得なかった。


「ワレハ、ニドモココヲトオスワケニハ、イカヌノダァァァア!」


 溢れ出る負のオーラがさらに強くなった。まるで彼の心を映すかのように。


「ミラト様……」

「あぁ……」


 俺は魔法を放った。せめて彼が、苦しみから解放されることを願いながら。


心火(しんか)に縛られし魂よ、せめて安らかな眠りに身を委ねたまえ……神聖魔法【浄魂輪廻(じょうこんりんね)】」


 俺の手から黄金の眩い光が一つの球となって現れた。その光の球はアーレインを優しく包み込むと、少しづつアーレインを侵食し出した。


「マダ! マダワレニハ! オウヲ。オウヲマモラネバ!」


 侵食されていながらも尚、アーレインはもがいていた。彼の王に対する忠誠心には尊敬せざるを得ない。


「もう君は十分に頑張った。 今は休んでいいんだ、アーレイン」


「モ。モウイイノカ……アァ、オ、オウヨ……ワレハサキニ、オ待ちしてイます……」


 そういってアーレインは消滅した。持っていた盾と剣だけがガランっと音を響かせて地に落ちた。俺はその剣と盾を拾い、鏡の世界(ミラーワールド)にしまった。


「リリー」

「はい」

「……行こうか」

「……はい」


 俺たちは足を進め、最後の扉を押し開けた。



魔剣ヒート

見た目はただの長剣。だが魔力を込めることで刀身が赤くなっていき、【放熱】と【熱切り】の効果をもつ。放熱の名の通り、剣自体が高熱を発することで近づいた相手に熱波による攻撃ができる。

また、熱切りにより、ただの鉄製の武具であれば、高熱で溶かしながら切り付けることができる。


神器浄魂集い之錫杖(ヒトアツメ)

レスシティカ王国に存在していたとされる神器。神々しい金色の錫杖。錫杖自体に大した攻撃力はないものの、待ちうる能力が非常に強力なあまり、軍事国家カルフィスが欲したことで戦争が起きた。現在はどこにあるか不明である。


神聖魔法

浄化魔法よりさらに高位の魔法。葬り去られし魔法(ロストマジック)の一つで、神の寵愛を受けた浄化魔法の使い手だけが使えるとされている。痛みを与えることができない代わりに、強力な浄化効果を持っており、また広範囲に作用ができる。生終天魔教においては神聖視されている魔法の一つ。


浄魂輪廻(じょうこんりんね)

黄金で眩い光球を生み出す。その光球は負の感情に反応し、負の感情の持ち主を包み、侵食していく。この光球に包まれ、浄化したものの魂は浄化され、新たな生を歩めるとされている。浄化時は非常に安らかな気持ちになると言われている。

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