ネームド
今回ちょっと長めになってます
俺たちは順調に廃城の中を進んでいた。奥に進むほど損傷は激しくなっており、凄惨さを物語っている。
「ここは……?」
ドアを開けた先は、天井まで届く本棚と、そこに収められていたであろう大量の書物があった。リリーは足元にあった書物を拾ってその中を見た。
「なんて書いてあるんでしょうか、これ?」
それは俺も見たことのない文字だった。試しに他の本を取って中を開いてみたが、どれも同じだった。
「なんて書いてあるんですかね」
「……人間が魔物化する条件の仮説」
俺は文字を見たことがないのに、なぜかその文字を読むことができた。
「読めるんですか?!」
「いや、俺がって言うより、俺の中のメシアさんの記憶にあった文字と同じだったんだよ」
メシアさんの記憶ではこの文字が一般的に使われていたらしい。俺は手に取ったままの本の内容を軽く読んだ。
「人間も生物であり、例外なく魔物化することが可能だと推測できる。 ではその条件とはなんだろうか。 魔物は瘴気から生まれるとされており、ダンジョンの発生にも瘴気が関わっていると推測されている。 では人間にとって瘴気と同等レベルの何かは何があるだろうか」
そして俺は次のページをめくり、そこに書いてあった文字を読んだ。
「激しい負の念。 それこそが人間を魔物にする原因である」
その文を読んだ俺はゾッとした。つい、持っていた本をバンっと閉じた。
(この本の内容の通りなら生きた人間も魔物化するってことか? だがそんなことがあっていいのか?)
俺は思考をぐるぐると巡らせた。考えたくもないが、一度考え出すとなかなか終わらせることができない。
「ふぅー……」
「ミラト様?」
「とりあえずこの本に書いてあることが本当かどうかわからないけど、今考えても仕方ない。 探索を続けようか」
俺は本を近くの本棚にしまうと、リリーと一緒に書庫を出た。
俺たちが探索を再開して数十分後、ついに王室、つまりこの階の階層主がいるであろう部屋に続くと思われる廊下にたどり着いた。俺たちは先ほどよりも気を引き締めてその廊下を歩いていった。そして廊下の終わりが見えかけた時、部屋の前の扉を守るように一体の魔物が暗闇のなかに佇んでいた。
「あれは……」
俺がそう呟くと、暗闇の中で魔物の動いた気配がした。そして驚くべき行動に出た。
「ナニモノ……」
「なっ!」
「しゃべった?!」
魔物は腰に刺した剣を抜きながらこちらに向かってきた。
「【映し鏡】!」
俺が映し鏡を使うと同時に暗闇から魔物が姿を現した。
名前:アーレイン
レベル:75
性別:不明
種族:怨念纏う騎士団長
スキル
剣術
盾術
体術
痛覚無効
魔法耐性
風魔法
威圧
負のオーラ
礼儀作法
称号:【亡国の騎士団長】
「な?! 名有りだと?!」
名有りとは言葉の通り、名前を持つ魔物のことだ。名前がある魔物は知能が上昇し、言語を話したり人の言葉を理解したりすることができる。
使役者や召喚士と呼ばれる、魔物を用いる職業の魔物は名前をつけつことで契約を行うため、不思議なことではないのだが、使役されていない魔物がネームドであることは非常に稀でイレギュラーなことである。
「ワレ、ココヲマモルモノ……ココハ、トオサヌ!」
「リリー! いくよ!」
「は、はい!」
俺たちは名有りとの戦闘を開始した。