一時の別れ
「本当にいいの?」
「はい。 迷宮の外に、居場所、ないので……」
あのあと俺たちは探索を再開する事にしたのだ。その前にキユリに一度地上に戻るか聞いたが、返事はいいえだった。
「そっか。 じゃあ一度お別れだね」
「はい。 その、いろいろありがとうございました……このお礼はいづれ、必ずしますので……」
「そんなに畏まらないでも良いよキユリちゃん。 俺たちがしたくてしたことだからね」
「そうですよ。 気にしないで良いんですよ」
そういわれたキユリは俯いていたが、すぐ顔を上げて小さく微笑んだ。
「あ、ありがとうございます」
「じゃあまたね」
「また?」
「うん。 また迷宮にはくるからその時はもっと美味しいものを持ってくるよ」
「楽しみにしててくださいね!」
「はい……はい! 待ってます!」
「じゃあ少しの間だけど、お別れだね」
俺はそう言ってキユリの頭を撫でた。キユリは少し困惑していたが、すぐに受け入れてくれた。
「あ、そうだ。 これも渡しとくね」
「これは?」
俺は肩掛けカバンをキユリに渡した。渡されたきゆりは訳がわからず、困惑していた。
「収納袋だよ。 中には寝具や体や服をきれいにする魔法道具、十日分の食料と飲み水なんかが入ってるからね」
「な、なんでそこまで……?」
「うーん、なんでと言われても……見過ごせなかったから?」
「なんで疑問系なんですか……」
「まぁ、もらっといて」
「あ、ちょ!」
「じゃ!」
受け取り拒否されそうな雰囲気を感じたので俺はリリーを連れてそそくさと移動した。
「置いてきてよかったんですかね……」
キユリと別れて、下の階にに続く階段を探しているとリリーはそんなことを呟いた。
「確かに不安だけど、また会えるよきっと」
「そう……ですよね。 またきっと会えますよね!」
「うん、きっと会えるよ。 今はそれより先に」
俺は続きを言わずに目の前をただ見つめた。俺たちの視線の先には下に続く階段があった。俺とリリーは軽く顔を合わせてからその階段を下っていった。
「ここは……」
階段を下った先、その先の景色は……
「崩れた王城……かな」
まさに廃城と言うべき様子の城だった。階段の降りてすぐには、片方の扉の欠損した城門があり、そこから確認できる中庭の様子は雑草や苔が生えまくっており、煌びやかさのカケラも感じない。むしろ悍ましさを感じる。
「とりあえず進もうか……」
「……はい」
俺たちは慎重に門を潜って、目前に聳えたつ廃城の中に足を踏み入れた。