出会い
俺たちは階層を下っていき、十八階層にまで到達した。ここまで来ると建物もだんだんと大きく豪華になっていき、破損も激しくなっている。
「リリー、そっち行ったよ!」
「はい!」
俺は二体の動く鎧を横なぎで胴体を両断しながらリリーに声をかけた。リリーは動く鎧の持つ槍を落ち着いて弾き、そのまま魔石を貫いた。
「だいじょうぶ? 怪我はしてない?」
「はい、平気です」
「にしても、数が一気に増えたね」
「ですね。 しかも武器持ちが多いです」
十八階層に入ってからすでに数回の戦闘を行なってきたが、どうにも動く鎧の数が多い。しかも複数体で固まって動くし、武器持ちがいるのでかなりめんどくさい。
「まぁちゃんと対処すれば問題はないし、落ち着いていこう」
「ですね」
俺とリリーはお互いの武器をしまいながら歩きだした。道中の曲がり角で、不意に目に何かが映った。
「?」
「どうしました?」
「気のせいかな? あそこに女の子がいた様な気がしたんんだけど……」
「うーん、見当たりませんよ?」
「見間違いかなぁ……」
でもすごく綺麗な白髪だったし、そんな見間違うような……
「もしかしてですけどミラト様、その女の子って幽霊じゃないでしょうね……?」
「うーん、どうだろう」
「そこは違うって言ってくださいよ!」
俺がチラッと見た人の話でリリーは幽霊だと勝手に勘違いしてビクビクしだした。戦闘になると気持ちが切り替わるみたいだが、どうも何もないとまだ怖いらしい。
「まぁ、とりあえず進もうか」
「うぅ……は、はいぃ」
俺たちが迷宮の中を探索していると、動く鎧たちが出す、金属が擦れ合う独特な音が聞こえてきた。その音に時々何かで殴るような音も聞こえてくるので誰かが襲われているのかもしれない。
「リリー、行こう」
「はい」
俺たちは音のする方へ走っていった。そして俺たちがついた先で目にした光景はなんとも異様だった。
「なんで動く鎧同士で争っているんだ?」
俺たちの視線の先ではまるで幻に包まれたように動く鎧同士でお互いを攻撃しあっているのだ。
「ミラト様! 真ん中に女の子が!」
リリーが指差した先には、動く鎧の集団の真ん中に黒髪の女の子が蹲っていたのだ。小さな花を抱えながら。
「リリー、俺は彼女の救出をしてくから、周りは任せてもいい?」
「もちろんです」
俺は武器を持たずに動く鎧の集団に向かっていった。何かに気を取られているのか、俺を狙った攻撃はこなかった。だがそれでも流れ弾は何度かくるが、それをリリーが風魔法で軌道を逸らしてくれている。そのおかげもあり、簡単に女の子の元に辿り着くことができた。
「大丈夫? もう平気だよ」
「え? あ、貴方は……?」
「それはとりあえず後でにしようか」
近づいてみると、まだ少女といった様子だ。俺はその子を抱き上げた。
「あ! 待って、私が離れるとあいつらが……」
「大丈夫だよ。 あの子もすごく強いからね」
俺は少女を抱き上げたまその場で跳躍し、動く鎧の集団の上を跳んだ。その瞬間、まるで幻が解けたかのように動く鎧たちが俺を一斉に狙いだした。
「リリー!」
「お任せください! 荒れ狂う風よ、私の意思に応えてください! 【暴風砲】!」
リリーが詠唱して放った魔法は、風が激しく渦巻きながら動く鎧たちを襲った。本来なら当たった箇所を抉ることもできる魔法なのだが、相手は鉄の鎧の集団なので、それは叶わなかった。しかしそれでも圧倒的なまでの勢いを止めれるわけもなく、動く鎧たちは吹き飛ばされた。
「えっ……」
「ありがとうリリー。 あとは任せて」
「はい!」
「炎・浄化魔法 【蒼炎火葬】」
俺が魔法を唱えると、人差し指に蝋燭の火ほどの大きさの蒼炎が現れた。俺はその炎を動く鎧たちの方に飛ばした。その炎は先頭に居た動く鎧に触れた。その瞬間、
「なにが、起きたの……?」
蒼い炎は瞬く間に広がり、全ての動く鎧を覆い尽くした。そして数秒後には鎧と魔石だけが地面に転がっていた。
蒼炎火葬
蝋燭の火ほどの小さな蒼い炎を生み出す。その炎は生者には一切の影響を与えず、死霊系の魔物に対して絶大な効果を及ぼす。蒼い炎は一度死霊系の魔物に触れると、瞬く間にその身体を覆い尽くし、その魂だけを焼き尽くす。
(カエルラはラテン語で青を意味し、フィゥネラルはラテン語で葬儀を意味するフィゥーネラルを元にしています。諸説あり)