動く鎧
あれから俺たちは十五階層まで足を進めた。下に行くほど建物の作りはしっかりとしたものになっていくのに、下にいけばいくほど崩壊度は増している。
「十四階層も凄かったけど、ここはさらに酷いな……」
「ですね……」
「ここは貴族街なのかな?」
まわりを見渡すと十四階層とは一気に建物の規模が違った。広々とした庭のある屋敷がそこら辺にある。ちなみにリリーはこの空気にある程度慣れたようだ。
「雰囲気が変わったから少し慎重に行こうか」
「はい」
ガシャン
「ん?」
「どうしました?」
「今なんか聞こえなかった?」
ガシャン……ガシャン……
「本当ですね」
ガシャン……ガシャン……ガシャン……
「気のせいですかね……音が近づいてきている気が……」
「リリー、構えて」
「は、はい!」
俺たちは音が聞こえてくる方向を注視しながら、武器を抜いて構えた。リリーの言った通り、音が確かに近づいてきている。そして数分ほどすると、その音の正体が姿を現した。
「あれは、甲冑……ですか?」
「そうだね、でもなんか変だ」
現れたのは甲冑だった。そういう格好する冒険者もいるから、いつもなら気にする必要はないのだが、明らかに様子がおかしい。
「【映し鏡】」
違和感を感じた俺は、映し鏡を使った。そして俺の違和感の正体は実に単純明快なものだった。
「やっぱり魔物か」
名前:なし
レベル:27
性別:なし
種族:動く鎧
スキル
痛覚無効
「動く鎧か。 実物を見るのは初めてだな」
魔物の名前は動く鎧と呼ばれる魔物で、名前の通り中身のない鎧が動き出す、れっきとした死霊系の魔物だ。中には歴戦の猛者の生への渇望を元とし、強力な個体も産まれたりする非常に厄介で、哀れな存在だ。
「リリー、こいつのは斬撃は対して効果がないから魔法で拘束を!」
「わ、わかりました!」
リリーが氷縛で動く鎧の足元を凍らせる。歩こうとしていた動く鎧は足が凍らされたことにより、ガシャーンと大きな音を立てながら倒れ込んだ。
「よいしょっと!」
俺が雪月花で鎧の真ん中を突き刺すと、石を砕く様な感触と共に、動く鎧は動かぬ鎧となり、数秒後には鎧は塵となり砕かれた魔石だけを残して消えていった。
「うわさで聞いた話と違って、予想よりも楽に倒せたね」
「それは、私たちの武器が良すぎるだけでは……」
「まぁ、楽できるならいいじゃん」
「確かにそうですけど……」
俺は砕けた魔石を拾い、リリーと迷宮の探索を再開した。