廃墟の街
「これはまた、不気味な雰囲気だな……」
「で、ですね……」
十一階層にたどり着いた俺たちの目の前に映ったのは、まさに廃墟というに相応しい光景だ。見渡す限り、無事な建物は存在せず、必ずどこかが壊れていたり、蔦まみれだったりしている。周りにある墓石にも苔がびっしりと生えている点も、より廃墟らしさを醸し出しているのだろう。
「とりあえず、進もうか?」
「は、はい……」
あれ? 心なしかリリーが怯えている?
「リリー」
「な、なんでしょう……か?」
「もしかして……怖い?」
「え?! いやぁ、別にそんなことは……」
「怖い?」
「うぅ……はい、実はちょっと……」
最初こそ強がろうとしていたが、もう一度聞くと観念したように苦手だと口にした。
「あの、なんていうか、この暗くて静かだと、どうしても両親が亡くなって一人で過ごしてた夜を思い出しちゃって……」
「……」
「あ、あのミラト様?」
俺はリリーを自分の方に無言で抱き寄せた。リリーは困惑と嬉しさの混ざったような表情をしている。
「じゃあ、寂しく無いようにくっ付いていようか」
「え?!」
「嫌なの?」
「嫌という訳ではないのですが……その」
ゴニョゴニョと言い訳をしているが、尻尾はどうも正直ものなようで、激しく左右に揺れている。擬音をつけるのであれば、間違いなくブンブンだろう。
「じゃあ行こうか」
「うぅ……は、はい」
先ほどとは違う理由で唸っているリリーを連れて、俺は十一階層を歩き出した。
十一階層を歩き始めてから十分もしない内に魔物が現れた。
「あれは……」
「まぁ、この雰囲気だし予想はつくよねぇ」
スケルトンだった。骸骨坑道の時のスケルトンとよく似ている。俺とリリーは現れたスケルトンを片手間に処理しながら話を続けた。
「この階層はスケルトンだけなのかな?」
「どうなんでしょうか……」
「まぁ、進んでみればわかるか」
「そ、そうですね……」
まだ少し怯えているリリーを連れながら歩いて行くと、狙ったかのようにスケルトン以外の魔物が現れた。
「ミラト様、あれって……もしかしてですけど……」
「あーうん、レイス。 一言で言えば幽霊だね」
「や、やっぱり?」
「どうやら十一階層からは死霊系の魔物が出るみたいだね」
「で、ですね……」
俺たちの目の前には人の形をしていながらも、人ではない。レイスと呼ばれる低級の幽霊だ。その証拠に足は膝下から透過しており、その目には生気が微塵も感じられない。さらに特徴として物理攻撃を無効化する性質を持つ。魔法を付与た武器や、魔剣などの魔法道具、それこそ魔法などであれば倒すことは非常に容易になる。
さらに言えば、質の高い魔力が垂れ流しにされていた場合、その魔力に触れただけで消滅したりなどもあり得る、魔法というか、魔力全般に弱かったりする。
「……」
「はいはい、どいてどいて」
「?!」
俺は雪月花でバッサリと切り払った。神器である雪月花は魔法道具の上位互換みたいなものなので、普通に幽霊系統の魔物を倒せる。あまりにもあっさりと倒したのでレイスが驚愕していたように見えたが、魔物なのできっっと気のせいだろう。
「ほらリリー、大丈夫でしょ?」
「うぅ……は、はい……」
返事は返ってくるものの、まだ無理なようだ。
「じゃあ、ゆっくりと進もうか」
「す、すみません……」
俺はリリーに配慮しながらゆっくりと進んでいった。