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現地の宿

「それで、もともと予約があったのは何日後だったのだ?」

「翌日の予定でした」

「そうなのか」

「えぇ。 ですから幸運な方と申したのですよ」

「確かに幸運だな」


 俺はソファから立ち上がると、軽く伸びをしながら、一つ気になったことについて質問した。


「そういえば、その貸し切りビーチはどこにあるんだ?」

「あぁ、その説明がまだでしたね。 貸し切りビーチは正確には小さな島ごとお貸しするのです」

「島?」

「はい。 この建物の裏にある砂浜を船で少し進むと、泡沫の所有している小さな島群があります。 その島一つ一つを私たち泡沫はお貸ししているのです」

「なるほどなぁ」

「その島々にはそれぞれ建物があり、そこにキャンプ等に使う備品から、食料に寝どこまで完備していおります」

「まさにいたせりつくせりだな」

「それがウリですので」


 そう笑われてしまった。俺たちは話を終えたので、談話室から出た。


「ではミラト様、翌日またいらしてください」

「あぁ、明日はよろしく」

「えぇ。お任せください」


 そして俺とリリーは泡沫を後にした。










「ミラト様、この後どうする予定なんですか?」

「う~ん、どうしようか」


 せっかく旅行に来たのだからそれっぽいことはしたいよなぁ……あ、そうだ。


「リリー、せっかくだし今日はこの町の宿に泊まろう!」

「宿ですか?」

「うん、旅行ぽいっし、何よりもこの町の料理も食べれるしね」

「分かりました。 でもどこに泊まるんですか」

「今から探すよ?」


 俺とリリーは何件か宿を回り、【海鳥の巣】という宿をとることができた。俺たちは宿をとった後、夕食の時間になるまで町を散策することにした。


「やっぱり海産物が多いね」

「そうですね」


 俺たちはあたりを見回しながら街を歩いていた。そると、一際俺の目を引くものがあった。


「お、兄ちゃんそれが気になったのか?」

「これはハットですか?」

「そうだぜ。しかも特注で、特別な生地を使っている」


 俺が手に取ったのは、シルクのように肌触りの良い白い生地で作られてたハットだ。リボンの部分は青色の生地でできており、その他に目立つ装飾はない。


「買っていくかい?」

「買います」

「あいよ! んじゃ、二万二千ルナだ」


 俺は金貨三枚を手渡し、釣りとハットを受け取った。そしてそれらを鏡の世界(ミラーワールド)にしまうと、店中でいろいろとみているリリーの元に戻った。そしてまた街を散策して、日が沈みかけたころ、宿に戻った。


「お帰り。 もう少しで夕食の支度ができるから、食堂にいるといいよ」

「ありがとうございます、女将さん」


 俺とリリーは言われたとおり、食堂で適当な席に着いた。すると、十分もしないうちに食事が運ばれてきた。俺とリリーが運ばれてきた食事を楽しんで食べていた。だがこの楽しい雰囲気はある男によってぶち壊された。


「なんなのだこの宿は! 仮にもセンリル子爵家の跡継ぎであるこのクーソ=フォン=センリルがいるというのに、この俺にこのような粗末なものを食わす気か?!」


 クーソと名乗った男は、机に脚を置きながらそう言い放った。その様子を見ていたほかの客は近くの人とひそひそと何かを話し出した。クーソは不機嫌そうに周りを見渡すと、俺たちのいる席に目を付け、そして護衛と思われる人たちを引き連れて、俺たちの席まで歩いてきた。


「おい、そこの獣人。 貴様なかなか良い娘だな。決めた、俺のものになれ」

「やめてください、あなたなんかに捧げるものなんて持ち合わせていません。 それに、私はすでに生涯を誓った方がいますので」


 クーソはそう言いながら、リリーに触ろうとした。リリーは不快なものを見るような様子で断り、その手をはねのけた。クーソはそのはねのけられた手を抑えながらワナワナと震えだした。その様子を見ていた周りの人たちがクスクスと笑っているのが癪に障ったのかクーソは荒い口調になって護衛と思われる人たちに命令した。


「この獣人風情が、俺が下手に出ていれば偉そうに……おいお前たち! この獣人を押さえつけろ! 今この場で服を剝いで見せしめに……」

「おい、いい加減にしろよ?」


 そのセリフを聞いた瞬間、俺は軽く殺気を放ちながら話しかけた。


「き、貴様邪魔するなら先に貴様から殺すぞ?! おい、お前たち、やれ!」

「「うす!」」


 身長二メートルを超える大男二人が俺に向かって殴りかかってきた。俺は殴りかかってきた手をつかみ、そのまま床にたたきつけた。そしてもう一人のほうは姿勢を低くし、下からみぞおちめがけて殴り、そのまま天井に激突させた。


「もう終わりか?」

「き、貴様、誰の護衛に手を出したのかわかっているのか?! 由緒正しきセ、センリル子爵家だぞ!」

「だから?」

「い、いいのか。 お、俺が父上にいえば、貴様程度の首なんかすぐに……」

「誰の首が飛ぶって?」


 俺はクーソにだけ見えるようにギルドカードを見せつけた。それを見たクーソはあからさまに顔色がだんだんと悪くなっていった。


「あ、あ、ああ……そ、そんな、う、嘘だ……」

「今どっかにいけばこのことは黙っててやる。 いいな?」

「ち、ちくしょ~!」


 クーソは護衛をおいて、宿から逃げるように飛び出していった。俺は床に転がっている男二人を宿の外に放り出すと、すぐにリリーのもとに向かい、抱き寄せた。


「ごめんなリリー」

「え、あの、ミラト様?!」

「どうしたの? もしかしてどこか触られた?!」

「い。いえそうではなくて……あ、あの、皆さんが見ています……」

「あ……」


 リリーに言われて俺が何をしているか把握した。


「ひゅーひゅー」

「お熱いねぇ!」

「見せつけてくれるねぇ!」

「ここでおっぱじめんなよ?!」

「かっこいい……」


 周りの客から冷やかしを受けていると、女将さんが近寄ってきた。


「いやぁ、助かったよ。 あんた強いんだね」

「まぁ、一応。 あ、あと破壊してしまったものの修理費です」


 俺は女将さんに白金貨を一枚手渡した。


「こ、こんなに要らないよ!」

「受け取ってください」

「だ、だけどさすがにこれは……」

「ではこうしましょう。 ここにいる方々全員分の新しい食事とお酒をお願いします」

「まぁ、それでも多いけど……ほんとにいいのかい?」

「えぇ、お願いします」


 俺がそう言うと、女将さんはしぶしぶ納得したような様子で白金貨を受け取った。そして食堂に響き渡るような大声で、客全員に話しかけた。


「この兄ちゃんが全員分の夕食と酒をおごってくれるってよ! 今からもう一回用意するから少し待ってな!」

「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」」」」」」」」」」


 歓声が鳴り響いてから、海鳥の巣は夜が明けるまで騒がしかった。





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