泡沫
「ここがリンヴェルさんの経営する貸し切りビーチ店、泡沫か」
「大きいですね」
俺たちの目の前には、どこかの貴族の別荘と見間違えてしまうぐらいの大きさをした建物の前に来ていた。
「とりあえず行こうか」
「はい」
俺たちは建物の扉を開けて、中に入った。
「広いな」
二階分ほどはありそうな広々とした天井に、とても上質な絨毯、白い壁にはシミ一つどころか、小さな傷すら見当たらない。俺達は絨毯の続いている先にある、受付と思われるところに歩いて行った。
「失礼」
「いかがなさいましたか?」
「俺はミラトというんだが、リンヴェルさんはいるだろうか?」
「ミラト様ですね。 既にリンヴェル様からお話をお聞きしております。 リンヴェル様はあちらに見える来賓用談話室にいらっしゃいます」
「これは丁寧にありがとう」
「いえ、業務ですので」
「そうか、では失礼する」
俺は受付にいた職員にお礼を言って、教えられた来賓用談話室に入った。そこには先ほどギルドであったリンヴェルさんがいた。
「すみません、少々遅れて」
「そんなことはありませんよ」
俺とリリーは、リンヴェルさんの座っているソファと対面するように設置されているソファに座った。それを見たリンヴェルさんが手にした杖で床を軽く二回叩いた。すると、数分後には飲み物とお茶菓子を持った職員が入ってきて、手に持っていたものをテーブルにおいていった。リンヴェルさんはおいてかれた飲み物を一口飲むと、話し出した。
「わざわざご足労いただきありがとうございます。 いかがでしょうか私の経営しているこの泡沫は」
「とても豪華で、それでいて不快感を感じない整えられた場所だと思ったよ」
「お褒めいただきありがとうございます」
俺はおかれた飲み物を一口飲んだ。飲み物はどうやら果実水のようで、果実の香りと風味が俺の中に広がった。俺が飲み物をテーブルに置くと、それに合わせたようにリンヴェルさんが話し出した。
「ミラト様は貸し切りビートを利用なさるのは初めてですかな?」
「あぁ、そうだな」
「では軽くお話いたしましょう。 まず貸し切りビーチには二種類存在いたします」
「ほう」
「一つ目は日帰りプランです。 一日ビーチや海水浴を満喫していただくものです。 そして二つ目が宿泊プランです」
「宿泊プラン?」
「はい。 宿泊プランは名の通りではありますが、宿泊プランならではの特徴がいくつかあり、そのうちの一つに夜の星空を開放的な砂浜の上でご覧いただけます」
「なるほど。 それで、キャンセルが入ったのはどちらのプランなんだ?」
「キャンセルが入ったのは二泊三日の宿泊プランでございます」
「ではそちらを予約させてもらおうかな」
「ありがとうございます」
「それで、 料金はどの程度の額だ?」
「そうですね、普段でしたら二百五十万ほどいただいているのですが、特別にミラト様には二百万ルナとさせていただこう」
「いいのか?」
「えぇ、ですが二つほどこちらからお願いしたいことがあります。 一つ目はお気に召したらでよろしいですので、ミラト様の名で宣伝してくださいませ」
なるほど。確かに鏡魔術師という肩書はそこら辺の子爵や男爵なんかよりも強い影響力を持つだろう。
「そして二つ目ですが、もしまた貸し切りビーチをご利用になさる場合はぜひ、泡沫をご贔屓してくだされ」
「分かった。 それでお願いしよう」
「ありがとうございます」
俺は二百万ルナ、白金貨二枚を手渡しながら話を終えた。