おまけ:メアとファナの旅7
ミラトが近くに居るとわかってから私は気が散って仕方なかった。負傷者の手当ても包帯を巻きすぎたり、もっていく薬を間違えたりしてしまった。そんな様子の私を見かねたのか、ファナが近寄ってきた。
「メア……大丈夫……疲れているの?」
「ファナ……」
そう声をかけてきたが、あからさまにファナの方が疲労困憊だという事が見て取れる。実際話している今もふらついているし、顔色も白くなっている。それなのにファナは弱音を吐かずに、私のことを気にしてくれたのだ。私は先ほどの自分の考えをひどく恥じた。こんなになるまで頑張っているファナに対して、
「護衛なんか」
と思ってしまったこと。それと同時にそんなことを考えた自分にひどい嫌悪感を覚えた。できることなら過去の自分を引っ叩きたいぐらいだ。
「ううん……すこし、考えごとをしてただけ……」
「そう……疲れてるなら、しっかり休んでね」
「ファナこそ……」
「私は……平気よ」
「でも……」
「大丈夫よ」
凄く疲れていて、弱弱しい状態のファナから出たとは思えないほどの強い意志のこもった返事が返ってきた。
「それに……これは私なりの罪滅ぼしだから……」
「え……?」
「じゃあ私は戻るわね」
そういってファナはまた負傷者のところに近寄っていった。私はその姿を眺めながら、自分の心の狭さと醜さを改めて実感した。
ミラトたちが進行したという情報を得てから日が暮れた。新たな負傷者こそ出ていないもの、現場にいない私たちには何が起きているか把握するすべがないため、不安感を募らせていた。
「ミラト……早く戻ってきて……」
「ミラトがどうしたのぉ~?」
負傷者の治療を一通り終えて、いつもの口調に戻ったファナが私の独り言に対して問いかけてきた。私は青年から聞いたことをファナに伝えた。
「じゃあ、あの時の考え事ってもしかしてそのことぉ~?」
「……」
何気なく聞いたであろうその質問に胸がひどく絞めつけられた。きっと幻滅されただろう。私は何か言われるのが怖くて声が出なかった。だがファナの返答は私の予想とは違った。
「よかったじゃない~」
「え……?」
「だって、ミラトに会えるかもしれないんでしょ~?」
「そ、そうだけど……でも! 皆一生懸命、治療をしていたのに……私だけ、自分勝手な考えで……動けなくて……ファナみたいに……みんなの役に立てなくて……何もできて無いのに……いっちょ前に……やりたいことをしようとした。 自分都合で動こうとした……」
まるで自分の自分に対するありとあらゆる負の感情を、ファナにぶつけるように語りだしてしまった。そのあとすぐ自分のしたことに気づき、ファナの方を見て謝ろうとした。その時見えたファナの顔はとっても優しそうな顔をしていた。そして真剣な口調で話しかけてきた。
「いいんじゃないかしら、好きなように動いて」
「だけど……だけど!」
「ずっと会いたかったんでしょ? そのためにここまで来たんだもの」
「それは、そうだけど……」
「正直言うとね、メアを誘ったのは、私の罪滅ぼしでもあるのよ」
「罪滅ぼしって……」
「それは秘密。 でもね、私だって私の都合で治療をしたの。 それは私がしたかったからした、それだけのことよ」
「でもそれは……」
「それに、メアは我慢しすぎなのよ」
「我慢……?」
「えぇ、時には私ぐらい巻き込んで、わがまま言ってもいいと思うの」
「そんなこと、私には許されてない……」
「じゃあ、私が許し上げる」
「え……?」
「これからはもっとわがまま言いなさい! いいわね?」
「あ、えっと……」
「返事は?!」
「え、あ……うん」
「それでいいのよ!」
そういったファナは一度大きく体を伸ばすと、立ち上がり、私の手を引いた。
「じゃあ、いまは休みましょ~」
「う、うん……」
私はファナに連れられて、騎士団の用意した簡易の休憩所に向かっていった。ファナのおかげで心の中で渦巻いていた負の感情はほとんど晴れたが、何かがまだ心に沁みついていた。でも、今の私はそれが何か分からなく、あとで考えることにした。