後日
蟻たちとの戦いが終わってから、三日が経った。学園は一週間の休暇中だ。あんなことがあったのだ、それは仕方ない。
「にしても、密度の濃い数日だったなぁ……」
「何か言いました?」
「いいや、何でもないよ」
独り言を、隣を歩いているリリーに聞かれて、聞き返されたので、適当にはぐらかしといた。俺達は今、王城に向かっている。なぜいつもみたいに転移しないのかというと、正式な聞き取り調査をするためだ。そのため、めんどくさいが徒歩で王城に向かっている。
「なんかこうして城下町を歩くのも久しぶりですね!」
嬉しそうに話しかけてくるリリー。その左手の薬指にはシンプルながら、光沢を放つ指輪がつけられている。何を隠そう、俺があの蟻たちの事件の終わった日の夜に送ったものである。指輪のほかにも、いろいろとあの事件を境に変化している。
まずは何といってもリリーの奴隷身分の撤廃である。俺たちはあの事件の後、無理矢理時間を作って、王都にいるディエナの元に向かい、そこで奴隷身分を撤廃してもらった。ディエナには
「思ったよりも遅かったですね」
と言われてしまった。こうなることも予想済みだったとは、商人の未来予測能力は恐ろしい。そして、奴隷身分の撤廃に伴い、ギルドカードも変更した。それがこうである。
名前:リリーシャ
パーティー:曇りなき鏡
階級:SS
職業:白銀魔術師
職業熟練度:44
称号:【銀姫】
二つ名:【銀園主】
となっている。ちなみにパーティー名のところにある【曇りなき鏡】はリリー名称による、俺とリリーのパーティーだ。今までは奴隷身分だったため、俺の所有物という扱いになっていたが、奴隷ではなくなったので、これを機にパーティーを作ろうとなったのだ。
「ミラト様、どうしました?」
いろいろと思い出にふけっていたら、リリーに心配されてしまった。
「いやぁ、あの日のことを思い出しててね」
あの日、俺はリリーの存在の大きさを改めて感じた。シエルスと対峙したあの時、リリーが帰らぬ人になってしまうのではないかという考えが頭をよぎった。その瞬間、俺は考えることを辞めて、飛び出してリリーの腕を引いていたのだ。
そしてその夜、リリーの存在を確認するかのように、強く抱きしめた。あの時の感覚は今でも覚えている。
「そうでしたか……私も覚えていますよ。 だって、ミラト様からこれをいただけたのですから」
嬉しそうに左手を見せてくるリリー。こうも喜んでくれると、挙げた身としてもうれしい。
「必ず幸せにするよ、リリー」
「なにかいいました?」
「いや、何も。 ほら、そろそろ王城につくよ」
俺達は、手を繋ぎなおして、王城の門をくぐった。
この世界にも婚約指輪という概念は存在しています。なので、ミラトとリリーシャの関係は察してください。