全滅
「落ち着いた?」
「はい……すみません……」
リリーは耳も尻尾もしゅんと項垂れていて、とても申し訳なさそうな顔をしている。だがまぁ無理もない。自分のせいで誰かが死ぬかもしれない瞬間を、目の前に見るかもしれない焦りと、それを上回る安堵に一気に襲われれば、感情的になるなという方が酷だろう。
「それより……まさかあいつがこの一連の事件の黒幕だったとは……」
「終焉之救済の最上位階級、十二之円卓……そのうちの一席【狂気】のシエルス……私の両親を……故郷を苦しめた張本人……」
「リリー、いろいろ思う事はあると思うけど、今からそんなに張りつめてたら身が持たないよ」
「は、はい……そうですよね……」
やはりそうはいっても割り切れないところがあるのだろう。俺もきっとリリーの立場だったら、今すぐにでもシエルスを追いかけたいところだ。よく我慢している方だと思う。
「よし!」
「?」
「今考えても仕方ない……まずはリリー」
「はい?」
「リリーが死ななくてほんとによかった」
これはまごうことなき今の俺の感情のほぼすべてを占めている、正直な思いだ。
「私も……私もミラト様が無事でよかったです!」
「ありがとう。 じゃあ、皆のところに戻ろうか」
「はい!」
俺とリリーはお互いの存在を確かめ合うかのように、手を繋ぎながらみんなのいるところに向かった。
「みんな無事?」
「ミラト!」
「遅いぞミラト!」
俺が皆のところに戻ると、シンラとメネリアスが駆け寄ってきた。
「そっちはどうだった?」
「あぁ、女王は倒したよ」
「じゃあ……?」
「あぁ、俺たちの勝ちだ」
「聞いたかお前ら?! この戦い、俺たちの勝ちだ!!」
「「「「「「「「「「う……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」」」」」」」」」」
大歓声を上げる彼らをしり目に、俺はシンラを手招きして呼び寄せた。
「それとシンラ、ちょっと」
「なんでしょう?」
「この事件、終焉之救済が絡んでいた」
「……後で詳しく、お聞きします」
それだけ会話したあと、俺たちは頷きあって皆のところに戻っていった。
「それで、そっちはどうだったの?」
「ん? あぁなんか、お前らの行った方向からものすごい音が聞こえた瞬間、急に蟻たちがその場で倒れだしたんだよ。 まるで……生命力を抜かれたような、そんな感じに」
なるほど……王の威厳の効果がこちらにも大きく影響していたようだ。
「それで、残党は?」
「いねぇよ?」
「え?」
「だからいねぇよ?」
「まさか……」
「おう。 全部の蟻がその場で倒れたんだよ」
まさか全滅しているとは……さすがに過剰すぎたか……まぁ終わり良ければ総て良しってことにしとくか。うん、そうしよう。
「それで、じゃあ今は何しているの?」
「何って、素材の回収に決まっているだろ」
「あぁ、なるほど」
「全部は持って帰れないからな、できるだけきれいな奴を集めているんだよ」
「それ、俺が持って帰ろうか?」
「ん? あぁそういえばこいつ……地底湖の水全部収納しても有り余るほどの空間魔法があるんだったな……」
「厳密には違うけど……まぁその認識でいいよ。 で、どうする?」
「お言葉に甘えさせてもらうとするよ……お前喜べ! ミラトが素材を全部持って帰ってくれるらしいぞ! だからお前ら、全部集めてこい!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉお!!」」」」」」」」」」
「相変わらずうるさいなぁ……」
「まぁ勘弁してやってくれ」
「まぁ気持ちはわかるしね。 じゃあ集まったらまた声をかけてよ」
「おう」
「それと……」
「ん?」
「無事でよかったよ、メネリアス」
「へっ! こっちのセリフさミラト」
俺達は無言で拳をぶつけあった。そして数十分後、俺の前には山積みになった蟻たちの死骸があった。