治癒の鏡
「ミラト様?!」
俺の腕に抱きかかえられたリリーが、過去に類を見ないほど焦っている。俺の片腕を食ったのは、口だけしかない植物のような物だった。
「おや、頭をくらうつもりだったのですが……まぁいいでしょう」
そういって、抉られた壁の方に戻っていくシエルス。その奥の方で魔法陣のようなものが見えることから、恐らく転移陣だろう。
「はぁ……はぁ……うっ! ま、待て!!」
「あぁ、その腕で私を追ってくることは推奨できませんよ。 その状態で出来ることなんて、無いと同然でしょう?」
そう嘲笑われるように告げられた。確かにその通りだ。あり得ないほどの痛みと、激しい流血で、今にも意識を失いそうな状態だ。何とか意地で気を失ってはいないが、それも時間の問題だろう。
「それに、まだ卵は孵ってないようですし、あなたとはまだ戦う時ではないのです」
「た、卵……?」
「今は知らなくてもいいのですよ……今は、ね? それでは私はこのあたりで失礼させていただきますね」
「くっ……」
そういい放ちながら、シエルスは、転移していき、俺たちはただそれを眺めることしかできなかった。
「はぁ……はぁ……くそ……逃がした……あんな奴を……!」
「ミラト様! そんなことより早くその腕を!」
リリーが大粒の涙を流しながら、何とか止血しようとしている。
「ケガは……ない?」
「私は平気です! それより私のせいでミラト様の腕が!」
リリーは俺に、さらに強くしがみついて泣きじゃくりだした。
「大丈夫……はぁ……はぁ……【治、癒の……鏡】」
俺がそう唱えると、俺の前に長方形の一枚の全身鏡が現れた。その鏡が俺に向かって倒れてきて、
パリン……
という鏡の割れる音が響いた。
「リリー、もう大丈夫だよ」
「え……?」
俺は泣きじゃくるリリーの頭を左腕で撫でた。
「な? 大丈夫だっただろ?」
「うっ……うっ……はい!」
「だからほら、その涙を拭きな。 せっかくのかわいい顔が台無しだよ」
「だ、だってぇ……わ、私のせいで、ミラト様の腕が、一生なくなると思って、もしかしたら、このまま死んじゃうかもって、考えたら、涙があふれちゃって」
「はいはい、落ち着こうね」
俺はそれから数分ほど、泣きながら過呼吸になったリリーを落ち着かせた。
治癒の鏡
鏡の中を通った人の外傷のない状態の肉体を保存し、発動するとその保存した情報を反映するというスキル。一度鏡を通っていることが条件だが、完全に灰になった腕なども元に戻せる。一度使うと、再度登録が必要となる