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暗躍者

「お前、何者だ?」

「何って……しがないただの研究家にすぎませんが?」

「そんなわけないだろ」


 壁の奥に隠れていた男がいたって普通の研究家なはずがない。その男の格好もこの場には全く似合っていない。白衣に桃色の髪で片目を隠し、黒縁の眼鏡をかけており、妖しい雰囲気を漂わせている。何か必ずたくらみがあるはずだ。


「ふむ、そういわれれば確かにそうですね……」


 男は一度何かを考えるようなしぐさをすると、ひらめいたかのように話し出した。


「そうですね……ここまで来たご褒美として、教えてあげるのもこれまた一興といったところでしょうか……」

「何を言っているんだ……」


 すると、男はコホンと咳ばらいをすると、姿勢を正して語り始めた。


「私はこの腐敗しきった世界を救済する者。【 終焉之救済(ラスト・レリーフ)】にして、その中でも最も優れた十二名にのみ与えられた名誉ありし席、【十二之円卓(ラウンズ)】が一人! 【狂気】のシエルス、と申します。 以後、お見知りおきを」


 そう高らかに語った。


終焉之救済(ラスト・レリーフ)……まさか……」

「おや、ご存じでしたか。 これはこれは何と光栄な事」

「世界各地でやりたい放題集団ってことぐらいは知ってるよ……」

「それは何と心外な……」


 シエルスは悲しげな表情をするが、微塵もそんな風に思っていないのか、声に感情がこもっていなかった。


「しかし……せっかく苦労して手にいれた被験体がこうも簡単に倒されてしまうとは想定外でしたね……ですがまぁ、データは取れたので良しとしましょう」

「被験体? データ?」

「おや、気になりましたか?! いいでしょう、お話いたしましょう!!」


 シエルスは話の内容を聞かれると、嬉々として語りだした。


「私はこの直近で四体の魔物を使ってそれぞれテーマに沿った実験を致しました! 一つ目は被験体炎狼です!」

「炎狼……?」

「テーマは魔力機関の改造と、その機関を使った魔法がその地にどれだけ大きな被害をもたらすかの実験です!」

「その地に……どれだけ大きな被害を……もたらすかの実験……?」


 何やらリリーの様子が少し変だ……


「ですが、その炎狼は獣人を二人しか殺害できず、その後逃亡してきました」

「そ、その……なくなった獣人の種族は……一体何ですか……」

「銀狼族ですが何か? まぁ、どうでもいいことは置いておきましょう。 次に行った実験は被験体乱風蝉による、成体前の状態から別の魔物に寄生し、寄生先の能力を得る実験です! これはうまくいきましたが、その後に生体反応が消失いたしましてね」

「……」

「さらにその次は被験体破水大蛇による自らの生息地に対する耐性入手による、優位性の増強です! これもうまくいったのですが、乱風蝉同様、生体反応が消失しました」

「まさか……あなたが……」

「そして最後が今回行った、集団を作る魔物の王の洗脳による疑似的な全体の洗脳及び、ダンジョン内の魔物の潜在意識に働きかけてダンジョン外に進出させる実験です! これも成功したのですが、あいにくあなた方に倒されてしまいました。 さて、ここまでで何かご質問は?」


 全てを得意げに語ったシエルスはとても満足そうにしていた。そんなシエルスに、リリーが途切れ途切れになりながら問いかけた。


「あなたが……あなたが、あの炎狼を……私たちのいた村に……炎狼を放ったのですか……?」

「はて? すみませんね、些細なことは覚えていないのですが……そういえば炎狼の体に、切り傷なようなものがありましたね」


 と、本当に覚えてなさそうにした。それを聞いたリリーはわなわなと震えながら、シエルスにさらに問いかけた。


「あなたは……亡くなった方々に……何も思ってないのですか?」

「実験のための尊い犠牲です。 むしろ光栄に思ってほしいぐらいですね」


 真顔でそういい放った。それを聞いたリリーは、無言で対の双剣を構えて、シエルスに向かって斬りかかった。


「待ってリリー!」


 俺の制止も聞かず、リリーはシエルスに向かって走り出している。シエルスは凛としながら片手を持ち上げた。その袖の中で何かが蠢いている。


「なんだあれは……」


 その蠢いているものは袖から飛び出し、リリーに噛み付こうとした。リリーは勢いをつけすぎたのか止まれそうになかった。


「くそ……間に合えぇ!」


 俺は勢いよく飛び出し、リリーの片腕を引いて抱き寄せた。その瞬間、


 ゴシュッ!


 という骨ごと砕けるような音と共に、俺の左腕が食いちぎられた。

終焉之救済などについては別のタイミングで解説します

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