形勢逆転
あれから十分ほど膠着状態が続いた。隙を見つけては魔法による攻撃を試みてはいるが、まるで効果がない。
「あのスキルが厄介なのか……」
鋼鉄女王蟻のステータスはこうなっている。
名前:無し
レベル:196
性別:メス
種族:鋼鉄女王蟻
スキル
鋼鉄化
強蟻酸
超速再生
王の威厳
排卵
成長促進
隷属
土魔法
砂魔法
称号:【統軍女王】
気になる点がいくつかあるが、今この状態において、最も厄介なのは【鋼鉄化】と【超速再生】の二つである。生半可な攻撃では傷一つつけれない外殻が【鋼鉄化】でさらに硬くなり、もし傷を与えることができてもすぐに再生されてしまう。
「かなり厄介だな……」
近づきにくいのに、近づいても硬い外殻に拒まれて決定打に欠ける。さらにその傷もすぐになかったことにされるとなると、完全にこっちがじり貧だ。
「一か八か……突っ込むか……」
その場で力をためて、体を低くして飛び出した。もちろん鋼鉄女王蟻ももちろん気づいており、魔法によって俺を串刺しにしようとしてきた。だがもちろんその対策はしてある。
「【割れる鏡】!」
俺と鋼鉄女王蟻の放った魔法の間に一枚の鏡が現れた。その鏡には先ほどの鋼鉄女王蟻の放った魔法が映っている。そして、その鏡が魔法に触れたと思うと……
パリン……
といった鏡の割れた音と共に、俺の目の前にあったはずの魔法は跡形もなく、まるで存在してなかったかのように消え失せた。鋼鉄女王蟻も、自らの魔法が跡形もなく消え去ったことに少なからず戸惑っているみたいだ。俺はその隙を見逃さず、一気に足元まで距離を詰めた。
「刀術【牙突】!」
雪月花の刃を上に向け、俺の目の前にある右の前足に向かって放たれた。
「ギシャァァァァァァァァアア!!」
俺の雪月花は鋼鉄化した前足をいともたやすく貫いた。
「リリー!」
「はい!」
俺はリリーを呼んだ。するとそれだけで俺の意図を汲んでくれたようで、俺と別の方向から攻撃を繰り出してくれた。
それから数分ほど至近距離での攻撃が続いた。鋼鉄女王蟻も魔法などで攻撃してくるが、それでもやまない連続攻撃に少なからず憤りを感じているようだ。ついに鋼鉄女王蟻俺に向かって両方の前足を振り上げてきた。だが、俺たちはそれを待っていた。
「リリー!」
「お任せください!」
俺はバックステップでその場から離脱しながら、リリーの名前を呼んだ。リリーはすぐに俺と入れ替わり、今すぐにでも振り下ろされそうな前足を受け止めるために魔法を発動させた。
「白銀魔法【白銀の園・大華主】!」
瞬く間にリリーの足元が白銀へと変貌し、リリー自身は白銀で出来たドレスを身に纏っていた。そして両手を自身の上で交差させると、その動きに連動するように白銀と化した地面から巨大な茨のようなものが現れ、振り下ろされれた両足を受け止めた。
「ミラト様、今です!」
俺はその声を聞きながら、魔力を急速にためだした。先ほどの殲滅戦に使用したときとは比べ物にならないほどの量を、十秒も満たぬうちにためた。
「リリー、離れて!」
そういって、リリーを離脱させると同時に六つの割れた鏡の欠片を放った。そしてそれぞれから魔法を六つ放った。
「炎魔法【紅蓮之波】、水魔法【流水高圧砲】、風魔法【嵐之牙】、白銀魔法【白銀螺旋槍】、鉱石魔法【黒玉弾】、原初魔法【始まりの爆発】」
六つの魔法を放たれた鋼鉄女王蟻はまるで守るという行為を忘却したかのように立ち尽くしていた。そしてすべての魔法が直撃し、激しい爆煙が生じた。そしてその爆煙が晴れてくると見えたのは……いたるところがボロボロになり、今にも息絶えそうな様子で立っている鋼鉄女王蟻の姿だった。
紅蓮之波
炎に波の形を与えて、広範囲を一度に焼き尽くす
流水高圧砲
水を高圧で圧縮し、放ち、目標に風穴を開ける
嵐之牙
荒れ狂う風に、獣の牙のような形を与えて、かみちぎる動作を行い、引きちぎりくらう
白銀螺旋槍
白銀で、巨大な槍を模して、螺旋回転しながら相手に突き刺す
黒玉弾
この魔法が展開された時、目標とされたものは守るという行為を忘却する効果を持つ鉱石で出来た弾丸
始まりの爆発
長いための後、まさにすべてが吹き飛ぶと錯覚するほどの大爆発を引き起こす