故郷と母親
なんか頑張ってシリアスに書きたかったんです。
「キョウマの村についたな?」
そこには二年前と何も変わっていない村があった。
だがそんな余韻にも長くは浸れない。
「何よりもまずは母さんだ!」
俺は自分の家のところまで走り出した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ついた」
まだ俺は肩で息をしているがそんなことに構わずに勢いよく引き戸を開けた。
俺の生まれた家は一軒家ではあるがそこまで大きくないので引き戸を激しく開けた音が響いた。
「母さん! 無事か?! 俺だ! ミラトだよ!」
俺は思わず入り口で叫んでしまった。
「本当に……ミラ……ト……かい?」
と、奥からか細い声が聞こえてきた。
俺はたまらなくなり母さんのいる寝室に向かった。
そこには俺が初めて買ってあげた贈り物であるベッドに寝転がっている母さんがいた。
「これは……夢じゃないんだね……?」
と、母さんは涙を浮かべた。そして優しく微笑んだ後にこう言った。
「おかえり、ミラト」
それは幼いころ何度も聞いたありふれた言葉だった。しかしそれが今の俺にはとても響いた。
「あぁ、ただいいま。母さん」
元仲間たちによってあけられた心の大きな穴が、少しづつふさがっていくように感じた。
「なぁ、母さん。具合はどうだい? くるしくない?」
元気そうには見えるが母さんの病気はとても重い。二年近く治癒魔法をかけても現状維持が精一杯なのだ。
「えぇ、なんだか今日は調子が良くてね」
「そう。ならよかった」
と、一安心した。
そして久しぶりに帰省したことで積もる話がたくさんあった。
村を出て冒険者になったこと。二年で階級Sにまでなったこと。そして鏡魔術師になったこと。
そのことを言った時の母さんはまるで自分の事のように喜んでくれた。
本当は元のパーティーとの別れやネイシスの建国者にあったことも話そうと思っていたけど、前者は胸糞が悪くなるだけだし、後者は歴史を覆しかねない情報だ。安易にバラまくのはあまり得策ではない。
おれは、喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んで話を続けようとした。
「なぁ、母さん」
「ミラト」
だがさえぎられてしまった。俺は焦ってぼろを出さないように短く、
「な、なんだい? 母さん?」
と答えといた。
「あまり無理して笑わなくてもいいんだよ。言いたくないなら母さんは言いなさいとは言わない。でもね、これだけは忘れずに覚えといてほしい。私は何があってもミラトの味方だよ。例え一人だとしても、独りぼっちじゃないからね」
と、母さんは微笑みながら言った。どんなに無理して隠しても母さんにはすべて見抜かれていた。
無意識のうちに顔にでも出ていたらしい。まったく母さんにはかなわない。
「うん、ありがとう、母さん。心が軽くなった気がするよ」
「なら、よかった」
「そうだ、母さん。果実をいくつか買ってきたんだ。切ってくるから少し持ってて」
と、俺は席をたって、台所に向かっていった。
「ごめん母さん、少し手間取っちゃて……ん? 母さん?」
と、話しかけたが返事はない。
パリン……
と、手に持っていた皿を俺は落としてしまったが、そんなことはどうでもいい。
おれは、母さんにに駆け寄った。
「う、嘘だろ? なぁ、母さん?! 大丈夫って言ったじゃないか?!」
と、母さんの頬に手を当てた。まだ暖かった頬がだんだんと冷たくなっていくのを感じる。
すると母さんの枕の下に手紙が一通あった。
そこには今までの俺が送っていたお金の貯めた場所に、言いたいこと。そして、自分の余命が短いことも書いてあった。
「なんで母さん……無理してたんだよ……」
すると手紙の最後のはこう書かれていた。
「母さんはいつでもミラトを応援しているからね」
と、書いてあった。
「最後まで……俺を待っててくれたんだね……ありがとう母さん……」
と、声に出して呟くと俺は立ち上がった。
俺は母さんの遺体を持ち上げると【移り鏡】によって【跳ね返りの神殿】の最奥にあるあの不思議な場所(めんどくさいので今後は鏡の部屋と呼ぶ)に行った。そしてネイシスの建国者である、メシアさんの隣に母さんの遺体を埋めた。
「みていてね、母さん。俺はきっと母さんが死後の世界でも誇れるような、そんな息子になるから」
俺はそんな決意をしながら鏡の部屋をでて、ネイシスに向かうために地上に出て、港に向かい出した。
これで、一章が終わりとなります。次章はヒロインが出てきます。




