一騎打ち
ガキーーーーン…………
雪月花による下からの斬り上げと、戦闘蟻の振り下ろした顎が甲高い金属音を響かせて、互いに互いを弾き飛ばした。
「くっ……」
「キシャァァア!」
弾き飛ばされた俺たちは、改めて体制を立て直して向かい合った。
「硬いな……」
「キシャァァァ……」
なんとなくだが、相手も同じことを思っているように感じた。
「だが、これはどうかな?」
俺は一度雪月花を鞘に納めて、体の姿勢を低くし、右足を後ろに下げた。俗に言われる、抜刀の体制だ。
「刀術【辻疾風】」
まるで通り風のように俺は飛び出し、少し上に打ち上げるように、薙ぎ払い、そのまま手首を返して上から振り下ろした。
ザシュ!
甲高い、剣がはじかれた時の音とは違い、何かを斬った音がした。そして数秒後には、床に顎の先端が落ちていた。
「キシャァァァァァァァアア!」
戦闘蟻は何とか体を後ろに下げて、直撃を避けたが、その立派な顎だけは避けきれなかった。顎を交差させて耐えようとしたが、一撃目の打ち上げで体制を崩されて、さらにその上から俺が雪月花で斬りつけたことで、その立派な両顎の先端がどちらも斬り落とされた。
「キシャァ……キシャァァァァアア!!」
両顎を切り落とされて、流石に怒りを抑えられなかったようだ。戸惑ったような声を上げた後、すぐに怒り狂ったような声を上げた。
「おー、怒ってる怒ってる」
「キシャァアア!」
顎の代わりなのか知らないが、俺に近づくと、体を持ち上げてその二本の前足を振り下ろしてきた。だが、
「怒り任せだな」
俺は軽く雪月花を振るうと、その二本の前足を切り落とした。
「キシャァァァ……キシャア?!」
前足を斬り落とされたのになぜか余裕の声色を上げていた。しかしすぐに不思議がった声を上げた。
「【映し鏡】」
名前:無し
レベル:47
性別:オス
種族:戦闘蟻
スキル
硬質化
蟻酸
狂化
高速移動
高速再生
と映った。つまり、足を斬られても高速再生が発動すると思っていたんだろう。だが発動しなくて困惑している、といったところだろう。
「俺の方が一枚上手だったな」
「キシャァァァ……」
俺の持つ雪月花の効果の一つ、【雪斬刃】のおかげだ。この雪斬刃の効果は、斬ったときに血液や体液、肉片や切断面を凍らすことで、刀身の切れ味を落とさないようにする効果だ。その副産物に、切断面を凍らすことによる、相手の身体的部位の再生を阻害、もしくは遅延を行うことが可能だ。今回はそれが刺さってのだろう。
「さて、そろそろ終わりにしよう」
「キ……キシャァァァァァァァァアア!!」
ここで初めて、戦闘蟻が後ずさりをした。俺に本能で恐怖を感じたのだろう。だが、そこに戦士のプライドが邪魔をして、撤退を許さなかったんだろう。自らを鼓舞するように大声を上げた。
「刀術【神閃・纏:重力崩壊】
雪月花を下段に構えた俺は、【辻疾風】とは比べ物にならないぐらいの速度で走り出し、雪月花を振り上げ、斬りつけた。
「キ……」
その一言を最後に、戦闘蟻は正面から真っ二つに両断された。
重力崩壊
一定範囲の重力を乱し、その領域内にいるすべてを引き裂く魔法。
魔法纏で纏わせると、斬った対象に働いている重力を任意で、操作可能。
本文中では前と後ろに重力で引っ張ることで、切断の効果の上昇させている。