戦闘開始
【炎王の拳】……名の通り、人間の数倍はある大きな炎が、人の拳のような形を模り、その拳が兵隊蟻たちの群れのど真ん中に大きな地響きを立てながら落ちた。
「「「「「「「「「「キシャァァァァァァァァァァアア!!」」」」」」」」」」
大きな断末魔を上げて、五十匹ほどの兵隊蟻が焼け死んだ。出来たら上位種も何匹か倒したかったが、それはかなわなかった。でもまぁ、今回特に危険なのは暴力的なまでの数なので、頭数を減らせただけ良しとしよう。
「すげー……この戦い、勝てるぞ!」
「あぁ!」
「行くぞー!!」
「「「おぉ!」」」
どうやら、鼓舞としては大成功らしい。いい感じに冒険者たちや騎士たちはやる気に満ちている。
「メネリアス、リリー。 俺たちは上位種の方に」
「あぁ!」
「はい!」
「メネリアス、ヘマすんなよ?」
「任せろってんだ! ちょうどこいつの試し切りしたいところだったしな!」
腰に刺さっている新たな武器、マジックカノンをたたきながらそう言った。
「リリー、無茶だけはしないでね?」
「ミラト様こそ、無茶はいけませんよ?」
「分かってる」
「本当ですか?」
「本当だって!」
「ならいいんですが……」
「リリーは心配性だなぁ……ほら、行くよ!」
「はい!」
そして俺たちは三方向に分かれて、それぞれ上位種のいる方に向かっていった。
「さて、俺はこいつを倒しますかね」
俺が向かった先にいたのは、この群れの中で最も大きい戦闘蟻のところだ。
「キシャァァァ……」
「おー、荒れてんねぇ……」
「キシャァァァァアア!!」
「急に鳴き出してどうしたんだ?」
戦闘蟻は、俺を見つけるなり、一声鳴いた。その次の瞬間、周りの兵隊蟻が一気に、取り囲むように俺の方を向き、体を持ち上げて威嚇してきた。
「「「「「「「「「「キシャァァァァアア!!」」」」」」」」」」
「これはまた……」
虫嫌いの人が見たら気絶しそうな光景だ。しかし、なぜだか襲ってくる様子がない。
「なぜ襲ってこない?」
すぐに答えは分かった。戦闘蟻が、少しずつ歩み寄ってきた。ここまでされれば、さすがに俺も理解した。
「なるほど、なかなか魔物ながら乙な事してくれるじゃないか……」
「キシャァァァァ……」
そう、一騎打ちだ。俺の目の前いる魔物は魔物なりに矜持を持っているようだ。
「その一騎打ち、応じよう」
「キシャァァァァアア!」
俺は腰の雪月花を抜いて構え、戦闘蟻は、カチカチと顎を鳴らした後、体を持ち上げた。そして俺たちは、見合い、照らし合わせたように動き出した。