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銀治「い、家……家、だとっ……」

 彩芽のことは彩香に任せて、俺はとりあえずハトを退散させて片付けを始める。手に持っていた帽子は彩香へと手渡した。


「銀治君ごめんねー……」


 にゃはは……と苦笑いながら言う彩香。


「いえいえ、気にしないでください」


 それにしても、だいぶ散らかされたな……。お茶はこぼれてるしサンドイッチは散らばってるし……。足元に置いていたリュックは濡れずに済んだが、せっかくのお昼が台無しになってしまった。


「あちゃー、めちゃくちゃだねー」


 彩芽を優しく抱きしめた彩香が、悲惨な机を見ながら呟く。


「二人とも、ちゃんと食事できませんでしたね……」

「私はいいんだけどね、彩芽がほとんど食べてなかったような?」

「別にもういいよ……食べる気なくなったし……」

「そっかー、んじゃこれからどうし――」


 ぐるるるるぅきゅうぅ……。


「「……」」


 音がした方向は二人の位置だった。彩香は目を丸くして彩芽を見つめている。

 彩芽は耳を赤くして彩香の胸に顔を隠すように埋まる。


「彩芽、お腹すいてるでしょ~♪」

「う、うるさい……私じゃないもん……」

「ムフフ~♪」

「な、なによ……」

「うーんとねー」


 彩香は上を向いて、考える素振りを見せながら言葉を続けた。


「次の講義は四限目だし、家帰って食べよっか♪」


 コクッと静かに頷いた彩芽。


「銀治君も来る?」

「ん……? え……?」

「あ、彩香! なに言ってんのよ!」


 上を見上げて抗議する彩芽の顔はまだ赤い。

 …………ぎ、銀髪美少女の部屋に俺が? 彩芽と彩香の部屋に俺が及ばれだと……!?


「銀治君? どうする?」


 とても行きたい……とてつもなく行きたい……。だが――


「女性の部屋に行くというのはちょっと……」

「そ、そうよ! 知り合って間もない男を家に入れるなんてどうかしてるわよ!」


 俺と彩芽の意見に彩香は眉を寄せた。


「でもさー、彩芽?」

「な、なによっ!」

「いつも銀治君に助けてもらってるじゃん?」

「うっ……それは……」


「今だって、机の上片付けてくれたし」

「うっ……」


「銀治君、食べてなかったのに」

「うぅ……」


「彩芽が倒した椅子も直してくれたし」

「わー! もう! 分かったわよ! 家に上げればいいんでしょ上げれば!」


 彩香の攻めに耐えきれなくなった彩芽が折れ、机の下に置いていた荷物を背負った。

 つまり……、ということは?


「よし、んじゃ我が家に出発だー♪」

「ふんっ……今回だけなんだからねっ……」

「ちょ、ちょっと待って――」

「ほら……」


 彩芽がそっぽを向いて俺に手を差し出した。


「ん? どうしましたか?」

「そ、そのゴミは私が持つから早く荷物持ちなさいよっ」


 彩香はリュックを片方の肩で背負うと、ニヤニヤと彩芽のことを見つめる。


「彩芽がデレたー♪」

「は、はぁ!? 別にデレてなんかないし!」

「ムフフ~♪」

「そのイヤらしい顔でこっち見んな! ふんっ! あんたも、さっさと渡しなさいよ! ほら――」

「っ……」


 無理にゴミの入った袋を取ろうとした彩芽の小さい手が少しだけ触れた。


「ほら、さっさと行くわよっ……」


 そのまま背を向けて歩きだす彩芽。


「ちょっと彩芽、待ってー。銀治君も早く早くー」

「あ、ああ……」


 手が当たったことに気が付いていないのか……。まぁ、役得だったということにしておこう。

 リュックを彩香と同じように片側で背負って二人のあとに続いた。


 図書館の屋上のテラスから広場に向かって歩いていく。すると、彩香が彩芽の顔を覗き込む横顔が見えた。


「あれ、彩芽の顔また真っ赤だけど、どうしたの?」

「な、なんでもない! なんでもないわっ!」

「なんか照れることあったの?」

「な、なんでもないって言ってんでしょ!」

「ふ~ん♪」

「そのニンマリした顔やめなさいよ!」


 ムギギと歯を噛みしめる彩芽の横顔が可愛い……。



 二人のやり取りを眺めている内に、気が付けばアパートの敷地に到着していた。


「やっぱり家が近いのは便利だねー」

「まぁ、それは否定しないわ」

「ふふふー♪ 彩芽も素直じゃないなー♪」

「ふんっ」


 階段を上がっていく二人の後ろをついていく。


「……」


 彩香の色白の綺麗な太ももが目の前に。ジーンズのショートパンツによる破壊力がヤバい……。


「あー、銀治君どこ見てるのさー」


 お尻の部分に手を当てた彩香が、ニヤニヤと見下ろしていた。


「い、いや、なにも見てない……」

「ムッツリ銀治君だねー♪ ニシシ♪」

「ち、違う……!」


 断じて魅惑の太ももに魅了されてなど……。


「あんたたち、なにしてんの?」


 上りきった彩芽が真上から、首を傾げてこちらを見下ろしている。ワンピースの隙間から細い太ももがチラチラと見える――が、その奥まではギリギリ見え……ない。

 くっ……俺はなんて煩悩だらけなんだ……! こんなことでは二人を守るなんて……。


「銀治君、頭抱えてどうしたの?」

「いえ……我ながらまだまだ未熟だなと……」

「ん?」

「二人とも、早く行くよ」

「はーい!」

「はい……」


 階段を上がり、彩芽が玄関のカギを差し込む。俺と彩香は両サイドからその様子を眺めていた。

 ガチャッとカギが開いた瞬間、


「……っていうかさ」


 そう呟いた彩芽に視線を向けられる。


「銀治は自分の家で食べたらいいんじゃないの?」

「……え?」


 男子禁制の銀髪美少女の部屋に入ることに浮かれていた所に、まさかの一言……。


「あー、そういえば隣だもんねー」

「そうよ、別にこっちの家に来て食べる必要ないじゃない」


 こ、このままでは銀髪美少女の部屋に入れないまま……。どうにかして入りたいが、俺から「一緒に食べたいです」なんて言えば嫌われてしまう可能性が……。一体どうすれば――


「まぁ、銀治君も入りたそうにしてるし、いいんじゃないかなー?」


 女神様! 女神様が救いの手を!


「嫌よ……」

「なんでそんなに嫌なのー?」

「それはその……」

「もしかしてー、銀治君に部屋が見られるの恥ずかしいのかな?」

「そ、そんなことないわよ!」

「んじゃー、ゴーゴー♪」

「あ、あわわっ! ちょっと押さないで――」


 彩香が玄関を開けて彩芽を中に押し込んでいった。


「ほら、銀治君もどぞー♪」

「ありがとうございます」


 落ち着いた声で返事をし、先に入っていく彩香の後姿を見つめ心の中で――「ありがとうございます……!」とお辞儀した。

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