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銀治「サンドイッチとハト」

「う、嘘よ! そんなことないもん!」

「手で顔を隠しても無駄だよ~♪ ねー銀治君♪」

「あ、ああ」


 こっちに向けられた彩香の笑顔が眩しい。一方の彩芽はこっちを見ながらはわはわしている。


「な、なにゃっ……!」

「もー、とりあえず彩芽も早く座りなよー」


 頬を染めたまま固まってしまった彩芽に、彩香が声をかけるも動かない。とりあえず椅子だけでも戻そうか。


「あー、銀治君さすがだねー♪」

「このくらい別にどうってことは――」


 ニコニコな彩香に返事をしつつ、彩芽の後ろで倒れている椅子を元に戻そうと前屈みになった瞬間――綺麗な銀色の髪が眼前に迫ってきた。


「っ……!」


 ぺしっと彩芽の髪が目に直撃した。

 目が……目がっ……。でも、良い香りが……。だが痛い……。


「銀治君、大丈夫!?」

「な、なにをするつもりっ!?」

「ただ椅子を戻そうとしただけです……」


 可愛いものは目に入れても痛くないとか言った奴は誰だ……。痛いじゃないか……。毛先が当たった分、ダメージが大きい……。

 立っているとふらつきそうなので、一旦その場にしゃがみ込んだ。


「あれ、なんで目を押さえてるの?」

「彩芽が振り向いた時に髪が当たったんだよー。いやぁ、的確に相手を仕留める見事な一撃だったよっ」

「えっ!? ご、ごめんなさい! だいじょうぶ……?」


 目を瞑っているから分からないが、彩芽が心配してくれているみたいだ。


「だ、大丈夫です。少し目に入っただけなので」

「でも……」

「大丈夫ですからそんなに心配しないでくだ……さ……」


 薄く目を開けると目の前に彩芽の姿があった。それも、膝に手をついた前屈みでこっちを覗き込むように顔を向けている。少しだけ肌から離れた胸元のワンピースの隙間から奥が見え――


「ンゴホッ……」


 目を逸らして思わず咳きこんだ。


 し、下着を……ブラジャーを着けていないだと……。いくら無いとは言ってもなんて無防備な……。


「ちょっと、顔が赤いわよ?」

「いや、その……」

「なによ」


 少しだけ向き直すが彩芽は態勢を変えないまま覗き込んでいるわけで――


「グハァッ……!」


 リアル銀髪美少女の胸元は、俺には刺激が強すぎる……。


「なっ! 今度はなに!?」

「んー? …………ムフフ♪」

「な、なによ!」

「彩芽、大胆だね~♪」

「な、なにがよっ!」

「ほら、そこだよー♪」

「ん……?」


 いつの間にか俺の横に立っていた彩香が彩芽の胸元を指差し、彩芽が下を向いていく。彩芽の頭からぼふっと煙が噴きあがったあと、彩芽の全身が真っ赤になった。


「――なっ……んにゃっ……! あ、あわっ、あわわっ……あにゃっ……み、見たの!?」


 胸の隙間は見たけれど……見えてしまったけれど……。


「な、なんとか言いなさいよっ!」


 だ、大事なところは――


「み、見てないです……」

「その反応は見たのね! 見たってことなのねっ!?」

「少しだけ……」

「ムフフ♪」

「わ、私の胸……見られて……。そ、そんなぁ……うぐっ……」


 羞恥心と絶望でその場にぺたんと座り込んだ彩芽が今にも泣きだしそうになっていた。


「す、すみません……」

「謝っても、もう見られちゃったもん……うぅ……ひぐっ……」

「アハハー♪ 彩芽がそんなポーズとるからだよ~♪」

「うぅっ……だって……髪あたったって言ったから……だから心配したのに……ぺたんこなの見られて……うぐっ……」

「ほらほら、泣かないのー。見られて困るものもないんだし♪」


 彩香がよしよしと彩芽の頭を撫でてなだめるが、あまり効果がないみたいだ。


「おっぱい大きい彩香には分からないもん……」

「私はぺたんこなお胸の彩芽が大好きだよっ!」

「こんなぺたんこな胸なんて女の子じゃないもん……」

「ミー君だってぺたんこだけど気にしてないよ?」

「それはそうだけど……」


 いや、あれはそもそも元の性別が違うんだが……。とりあえず椅子に座って――

 バサバサバサバサ!


 あ、ハトが机の上に……。


「クルック、クルックー!」

「ほらー、彩芽が早く食べないからハトが食べてるよー」

「ふぇ?」


 振り向いた彩芽が机の上のハトに見下された。


「――い、いやぁ! は、ハト! ハトやだっ! やだぁ!」

「ちょっと! 彩芽っ!?」


 ドタバタと立ち上がろうとする彩芽。目の前で手をバタバタと動かしながら立とうとした結果――足元がおぼつかずに躓いた。


「あ、あわわっ……!」

「お、おい……」


 顔から迫ってくる彩芽に両肩を掴まれた。踏ん張りが利かず、そのまま後ろに倒されていく。


「あ、彩芽さ――」

「あわっ!」


 俺は彩芽に押し倒され、そのまま胸元へ彩芽が倒れこんできた。ぶつかった勢いで落ちそうになった麦わら帽子を左手でキャッチ。

 彩香は俺と彩芽の様子を見ながらムフフと笑っている。


「は、ハトやだぁ……」


 彩芽はハトに驚いて気が動転しているのか、俺の胸にしがみついて離れない。

 彩芽の声によって、周囲の目がこっちに向き始め――


「え、なにあの人たち……」

「きゃー! ハトがサンドイッチ食べてるわ!」

「あの子、大胆すぎるでしょ……」

「少女が男を押し倒したぞ……これはまさか……」

「ほほう、胸熱な展開ですな……」


 ……。俺は構わないが彩芽がなにか言われているのは嫌だな。っていうか、男に思いっきり触れているが大丈夫なのか?

 あれ、もしかすると俺は男として思われていない可能性すらあるのでは……。


「えっと……彩芽さん……、一応ここは大学なので……」


 上半身を起こしながら声をかけるも、聞く耳持たず。胸に顔を埋めたまま動かない。

 俺の胸の中で銀髪美少女が小さく震えているこの状況……。

 とても……とても抱きしめたい……。彩芽の背中まで伸ばしていく手――だが、彩香に助けを求めた。


「彩香さん、頼みます……」

「ムフフー♪ 銀治君もなかなか奥手だねー♪」


 触っていいなら触りたい……! だが、彩芽の男性への苦手意識がある以上、俺が体に触れることはしてはいけない。それに、これ以上は自分の感情を制御できなくなってしまうかもしれない……。


「ほら彩芽、銀治君困ってるから離れなさーい」


 軽々と持ち上げられる彩芽が、彩香の谷間に顔を沈める。


「クルックー! クルックー! クルポーッ!」


 机の上では四羽のハトが食い散らかしていた。

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