彩香「これはいかんともしがたい何か……」
全開のあらすじ:彩芽にこしょばされた
――ということで、銀治の玄関の前だけども……。
ピンポーン♪
「……」
なんだかそわそわしてしまう……い、意外と、男の人の家に訪れるというのは、なんというか、緊張するかも……。
「あ」
開いたっ。
「ん……、あれ、彩香さん?」
ぼさぼさの頭でいかにも寝起きだなー。
「やっほーい」
とりあえず笑顔で手を振ってみるけど。
「おはようございます……」
反応が薄い……。
「それで、どうしたんですか?」
「そう、よく聞いてくれたよ銀治君っ! 実は――」
かくかくしかじか……。
話し始めて「彼氏の振り」というワードが出た瞬間にすごい喜んでくれたんだけど、なんか申し訳ないな……。振り、だからねー。
「その話、喜んでお引き受けいたします」
「いいの? 面倒臭いよ?」
「むしろこちらからお願いしたいです」
なんか、勢いがすごいな……。
「言っておくけど、ほんとの彼氏じゃないからね?」
「ええ、もちろんです。そんな恐れ多い……彼氏の振りで十分です。満足です。むしろご褒美です」
「あー、あははー……それは良かったー……」
ふむふむ、ミー君と話す時と違って敬語なの、ちょっと距離を感じるなぁ……。
「んじゃ、今から準備しますんで少しだけお待ちを」
「はーいっ、お待ちしてますっ」
……五分後。
「お待たせしました」
「早いねー」
「着替えるだけなので、いつもこんな感じですよ」
カッターシャツにネクタイ無し、黒いパンツ。
程よい筋肉でスラっとしてるし、銀治君で正解かもしれないなー。
「あ、そうだ。敬語だと怪しまれるから友達みたいに気楽にお願いします!」
「分かりました」
「それ! それだよっ!」
「あ……、そうか……」
顎に手を添えて悩み始める銀治君。
そんなに悩むことかな?
「……名前も彩香さんだとマズいですかね?」
「んー、念のため呼び捨てでいこっかー」
「では……ちょっとだけ待ってくださいね……」
銀治君が深呼吸をしたあとに真直ぐこっちを見てきた。
「……」
なぜ、そんな真剣な目つきでこっちを見つめるんだ……。
「彩香、行こうか」
「っ……⁉」
な、なん……なんかコレ恥ずかしいよぉお……!
ハッ! 思えば私って男の人に呼び捨てされるのって初めてじゃないか……⁉
面と向かって下の名前で呼ばれると、なんかこう――
「彩香、大丈夫か?」
「は、はひゃいっ! 大丈夫ですっ!」
「なんか顔赤いけど、どうした?」
「や、やめ、その雰囲気で近付かないでください!」
「なんで彩香が敬語なの?」
「いや、その、なんか、こう、いつもと違う雰囲気に違和感を感じるといいますかなんというか、とりあえず、あんまりこっち見ないで!」
ひやぁ……なんで私は照れているんだぁ……!
「よく分かんないけど……、とりあえず行くか?」
「う、うん! 行きます!」
「だから、なんで敬語?」
「いや、そんな急に自然体で来られたら……」
多少は意識してしまうというかなんというか……。
「大丈夫か?」
「えっ……」
俯いている間に目と鼻の先に銀治君の顔がっ。
「いやぁっ!」
「ぐはっ……」
「あ……ごめん、つい勢いで!」
思いっきり顔を叩いてしまった……。
「い、いや、こちらこそすまない……どうも距離感が分からなくて……」
「わ、私こそごめんなさい!」
「「……」」
なんか気まずいんですが! とっても気まずいんですが!
「と、とりあえず行こうか」
「う、うん! そだね!」
先にアパートの階段を下りていく銀治君の後ろをついていく。
「……」
なんか……、なんか気まずいよっ!
アパートの敷地を出て大学へと向かって歩く途中、隣の銀治君がちらっとこっちを向いてきた。
「そういえば二人で会うのって初めてだったかな?」
おぉ、今そういうこと言ってくるとは。
「そ、そうだねー、あははー……」
「やっぱり……」
顔をじっと見つめてくる銀治君の視線が熱いよぉ……!
「ど、ど、どしたのかな?」
「やっぱり綺麗だなぁって」
「ブフォッ……」
二人きりでもこういうこと言ってくるのかぁー……。彩芽はもしかしてコレにやられたのか⁉ この自然な言葉にやられちゃったのかい⁉
「ぎ、銀治君……」
「ん、なに?」
「君、さてはモテるだろう!」
「え……」
「あ、あれ……?」
銀治君の足が止まってしまったぞ……?
「彩香さん……」
「は、はいっ」
真剣な眼差しがこっちに向いてるっ!
急に敬語に戻るとかズルい! ズルいぞ銀治君!
「俺、中学高校ボッチだったんで……女の人と付き合ったことすらないんですよね……」
「嘘だー、そんな自然体で褒められたら女の子なんてイチコロでしょー」
べ、別に私がそうなっているという事ではないんだけどね、ないんだけどねっ⁉
「俺、銀髪美少女にしか興味ないので」
「あ……」
そういえばそんなこと言ってたな……。
「俺が初めて可愛いと思ったのは彩芽さんで、綺麗だと思ったのは彩香さんです」
「なんっ……!」
さっきから、そういう事をぽんぽんとぉ……。
「彩香さん?」
「ば、ばかっ! 近付くんじゃない銀治君!」
「そんな……」
相当ショックだったのか、銀治君がとても悲しそうな表情になってしまった。
「あー、もう、とりあえず行こう!」
このままじゃ話も進まないし! 先輩たち待ってるし!
「はい……」
「ごーごー!」
恥ずかしいので並ばないように先に歩く!
はぁ……なんかドキドキしてるし、意識すると余計にこれはいかんともしがたい何かが……。
いや、でも銀治君は彩芽のもの……。だがしかし、彩芽は同時に私のもの……。
あ、そうだ。
彩芽は私のものだ!
「銀治君!」
「な、何でしょうか……」
「彩芽は、妹は渡さないからな!」
「ん? どういうことですか?」
「ど、どういうも何も、彩芽は私のものだから! 君には譲らん!」
「二人が一緒の方が素敵なので大丈夫です」
なぜかグーサインで了解してくれた⁉
「むぅぅう……!」
銀治君はもしかして私まで範囲に入っているとでも言うのか⁉ まさか彩芽と私⁉
し、姉妹ごといくなんてそんな……!
「彩香さん顔真っ赤ですけど――」
「と、とりあえず、君に妹はあげないから!」
「は、はあ……」
なんか納得した返事ではない上に、「こいつ何言ってんだ?」みたいな顔で見られてしまった。
作者「だだっですとどん! だだっですとどん!」(`・ω・´)
彩香「どうしたんですかー」
作者「アイルビーバック」(*´ω`)b
彩香「はーい」
作者「( ;∀;)冷たいっ」