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銀治「ロシアではこういうのが主流なのかっ⁉」

前回のあらすじ:それでもやっぱり彩芽が可愛い。

 よく分からない挨拶が終わり、玄関の中に入ってきた二人。

 とりあえずミハイルを引き剥がそうとするも、抱きついたまま離れてくれない……。


「くそ……抱きつくな……!」


 後ろに手を伸ばしてどうにか引きはがそうとしてみる。


「くっ……」


 首元に巻かれた腕が俺の力でも取れないとはどういう事なんだ……明らかに俺の方が細身のミハイルよりは強いはず……。


 まさか、俺は心のどこかでこの状況を楽しんでいるのか……⁉

 いや、そんなわけがない。そんな事があってはいいはずがない!


 腕がダメなら体を無理矢理引き剥がすまでだ……!


「この……」


 背中に抱きつくミハイルを掴むために右手を後ろに回して――


「ひゃんっ♪」


 ミハイルが嬌声をあげ、俺の手は何か柔らかい人肌に触れていた。


「やーん♪ どこ触ってるのー♪」

「……」


 何だこれ……柔らかくてスベスベで……触り心地のいいコレは……。


「ボクの太ももそんなに触るなんて、ギン君ったらえっちぃー♪」


 ……頭の中ではなんとなく理解していたんだ……「あ、多分、太ももだろうな」って……。だが、あまりの触り心地に俺は……。

 男の娘の太ももに、少しだけ「良い」と思ってしまった自分を殺したい……。


「ムッフッフー、楽しそうだねー、良いな良いな~」


 彩香はニヤニヤしながら目を輝かせていた。

 尻尾を振って餌を待っている犬のようにも見える……。


「これが楽しそうに見えますか……というかマジで離れろお前……」

「やっだよー♪ ムフフー♪」

「くっそ……」

「……」


 黙ったままの彩芽がふと気になって視線を少し向けてみる。

 ……彩芽が! 彩芽の目が怒っている!

 何に怒ってるのかは分からないが、ふくれっ面で腕を組んだままとてつもなく睨まれている……。


 俺はどうすれば……。


「ミー君も銀治と知り合いだったんだねー、意外だよー」

「幼馴染なんだ~♪ むしろ許嫁ー♪」

「「なっ……」」


 ミハイルの発言に俺と彩芽の驚く声が重なった。


「……なんちゃって~♪ にゃははー♪」

「はぁ……」


 俺がため息をついた時、視界に映る彩芽はなぜかホッとしていた。


「ねーねー! 私もミー君に抱かれたーい! ミー君こっちにもカモンだよー!」


 両手を広げてウェルカムポーズの彩香。白シャツに「妹最強」と横文字でプリントされているのが少し気になったが、それよりも伸ばした腕の間で揺れる胸の破壊力が……。


 俺が飛び込みたい……その柔らかそうな胸の谷間で一度落ち着かせて頂きたい……。


「んじゃ、久しぶりだし彩香にもー♪」

「おいでー♪」


 ふっと軽くなった首の締まりの解放感に見舞われつつ、ミハイルが彩香へと近付いていく。


「あーやーかー♪」


 ぼふっと聞こえてきそうなほど豊満な胸に飛び込んでいくミハイルが羨ましい……。


「おー、よしよしー♪ 相変わらずミー君は可愛いなー」

「彩香のお胸またおっきくなったねー♪ ふわふわだよー♪」


 彩香に抱きついて顔を沈めていくミハイル……。俺も男の娘だったらあの胸に飛び込めたのか? 飛び込むことを許されていたのか? ……いやいや、それでは本末転倒になってしまう。


 それにしても……。目の前に広がるこの天国は何なんだ……俺は姉ショタにまで手を出してしまったとでもいうのか……。

 あれ……でも待てよ……。この場合男の娘だからどうなるんだ……?


「ムッフッフ―、ミー君ならいつでも大歓迎だよー!」

「やわやわ~♪」

「可愛いぃ~……」


 抱きつかれている彩香の顔が蕩けて昇天しそうになっているが、ミハイルも彩香も満足そうなので突っ込まないでおこう……。これはこれで俺にとっては目の保養になるし……。


「ミー君かわわ~♪」

「彩香やわわ~♪」

「……」


 銀髪美女と銀髪男の娘は目の前でしばらく意味不明な言語で戯れていた。


 なんでこんなことに……。


「……」


 終始無言のまま睨みつけてくる彩芽に目を向ける。


「なによ……」

「い、いや。なんで怒っているのかなと……」

「べつに怒ってないし。……ふんっ」


 そっぽ向いて怒ってらっしゃるじゃないですか……。


「にゃは~♪ 気持ちよかったー♪」


 顔を上げたミハイルが彩香と見つめ合う。


「お粗末様でしたー」


 ニコニコデレデレで大満足の彩香がミハイルを眺めていた。

 彩芽以外でも可愛ければなんでもいいのか……。


「彩芽もおっひさー♪」


 そう言って隣に並ぶ彩芽にも抱きつこうとするミハイルを見て咄嗟に昼間の出来事を思い出す。


『男の人苦手なんだ……』


「――おい!」


 掴もうとしたミハイルの手――だが、俺の手は空を掴んでいた。


 男が抱きついたら彩芽は――

 次の瞬間にはミハイルが彩芽に頬ずりをしていた。


「むにゃー♪ 彩芽も相変わらずだねー♪」

「なにがよ……」


 嫌がりながらも腕を組んだままミハイルに抱きつかれている彩芽に少しホッとする。


 うん? 大……丈夫……なのか?


 彩芽は震える様子もなくミハイルにスリスリされていた。やっぱり男の娘は性別の壁も超えるというのか……。

 しかも、この状況は何なんだ……。抱きつくのは銀髪美少女同士の挨拶なのか? ロシアではこういう挨拶が主流なのか? 出来ることなら混ざりたいっ……!


「なにがってそりゃ~……ムフフー」

「さっさと言いなさいよ……」

「お胸がぺたん――」

「言うなっバカ!」

「うっ……」


 彩芽の頭突きが炸裂し、頭を抱えてしゃがみこむミハイル。


「彩芽が言えって言ったのにー……」

「ふんっ……」

「彩芽もミハイルに抱きつかれて嬉しいくせにー」


 不貞腐れている彩芽の頭を優しく撫でる彩香が微笑ましい……。


「うっさいっ、鬱陶しいから撫でるな触るな笑うなっ!」

「ムッフッフ―、可愛いぞー」

「やめっ……やめてって言ってんでしょ!」


 彩香の手を懸命に振り払おうとするが、やはり身長差には勝てないんだろう……。

 諦めた彩芽は彩香からそっぽを向いた。見える横顔からはまんざらでもないように思える。




 ミハイルが離れてようやく落ち着いてきた……。

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