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銀治「そ、それ以上はやめてくれ……」

前回のあらすじ:本当に男の娘でした。

 頬を赤らめながらミハイルが恥ずかしそうにこちらを見つめてくる。


「……ということでー今日泊まってもいいかな♪」


 目をキラキラさせながら言われても……。

 男の娘なら尚更こいつを泊めるわけにはいかない。

 昔の思い出とか、銀髪とか美少女っぽい所とか、彩芽や彩香と似ている所とか……。

 下手を打てば、俺は俺の道を踏み外してしまうかもしれない……!


「ダメだ」

「えー、なんでなんでー?」


 再び四つん這いで俺のテリトリーに侵入しようとしてくるミハイルに思わずたじろいだ。


「ち、近寄るんじゃない……」


 潤んだ瞳でこれ以上見られたら耐えがたい何かが崩壊してしまう……。


「ムッフッフー、どーしたのかなー♪」

「や、やめろ……」


 近寄る度に俺は後ろに引いていく……。


 初恋だった相手(男)になぜ俺は今になって迫られているんだ……。


「にゃは~♪」


 くそっ……見た目が短髪の彩芽で中身が彩香みたいな奴だと思えば思うほど、俺の中の防波堤が……。

 このままでは防波堤が……心の防波堤が決壊してしまう……!


 逃げなければ――

「ッ!」


 やばっ……後ろにテレビ台が……。


「もう逃がさないぞー♪」

「や、やめ――」

「がおーん♪」

「グフッ……」


 思いっきり飛びつかれて胸元でスリスリされた……。

 足の間でミハイルがデレた猫のように抱きついてくる……。


「ん~やっぱりギン君が一番だー♪」

「……」


 蔑んだ目でミハイルを睨みつけるが、スリスリに夢中でこちらを見ていない。

 こいつが銀髪でも美少女でもなければ十字固めを決めた後に玄関の外に追い出してやるんだが……。


 デレによる影響で頭がっ……。


 もしかしたら……もしかしたらこれはこれでアリなのかもしれな――


「いやいやいや……」


 あ、危ない……意識が持っていかれる所だった……。


「ん? どしたのー♪」


 胸元で俺の服を掴みながら見上げてくるミハイルがあざとすぎる……。


「な、なんでもない……」

「ムフフー、照れてる照れてるー♪」


 頬をツンツン指先で突いてくる……。


「勝手に言ってろ……」

「はーい♪」

「……」


 煩悩滅殺……無欲、無関心……川のせせらぎ……悟りを開くんだ銀治よ……。


 俺はあらぬ感情を抱かないように無心でミハイルにスリスリされ続けた。


「…………」

「ムフフー……ムッフー……♪」


 男女、男男女、男女……男女、男男女、男女……。

 頭の中で壊れたラジカセのように同じメロディーを繰り返す。


「にゃは~ん……♪」


 くそ……だんだん可愛く見えてくるのは何故なんだ……。あれか、彩芽と彩香が合わさっているからなのか。天使と女神が混ざると男の娘になるのか⁉


 やはり男の娘はアニメや漫画だけではなく現実でも威力を発揮するというのかぁあああ……!

 男の娘……男の娘は女の子なのか……?


 ――銀治の思考回路は混乱状態であった。


「……」


 くっ……一旦落ち着こう……。

 俺は今日、筋トレしてランニングに出かけて彩芽に鉢合わせて一緒に帰って来て、それからシャワーを浴びてミハイルに襲われて……。


「にゃはーっ♪ 堪能したー♪」


 満面の笑みで顔を上げるミハイル。

 もう、ご満悦のようで何よりです……。


「満足したならどいてくれないか?」

「まだ、だーめっ♪」


 ミハイルはそう言いながら体の向きを変えて俺の体をソファのようにしてもたれかかってきた。俺の太ももに手を置いて足を伸ばし、目線を下げるとミハイル絶壁が真下に見える。


 こいつは……男、男男、男男男、男男男男男男男……。


「ねー、ギン君……」

「は、はいっ」


 くっそ、なぜ俺は緊張しているんだぁあああああ!

 ミハイルがこちらを振り返り見上げる。色白の綺麗な肌と少しだけ荒い吐息が漏れている。


「襲ってくれても……いいん、だよ?」

「なっ……」


 頬を赤らめて呟かれた一言に絶句した。


「ねぇ……ギン君……」


 もたれていた身体を俺にすり寄せてくるミハイル。


「……」

「……ねぇってばぁー♪」


 顔がっ、ミハイルの顔が近っ……。

 し、しかし、男に対して立つわけにはいかない……こいつだけには立つわけにはいかないんだ……。


「お前、いい加減にし――」

「なんちゃってー♪ にゃははー♪」


 ミハイルがニコッと笑った。


「え……」

「えへへー♪ ギン君をからかってやったぞー♪」


 本当に満足したのか、ようやく立ち上がって布団の方へと歩き出したミハイル。


 俺はただ茫然と目線の先の綺麗な太ももを眺めていた。

 ……弄ばれた、だと。


 ミハイルが布団の手前で立ち尽くす。


「よしっ! ミッションクリアーだぜいっ♪」


 ガッツポーズを決めているようだが、こいつの中で何のクエストが完了したんだ……。


「ギン君の家に入る……布団でモフモフする、抱きつく、ドキドキさせる……完璧だねっ♪」

「……振り返ってドヤ顔でポーズされても困るんだが……」

「いや~楽しかったー♪」


 俺はこいつに踊らされていたのか……また俺はあの時のように騙されたのか……。


「よこしょーっ」


 少し距離を空けて、ミハイルは再び女の子座りで俺と向かい合った。


「もう二度とやるなよ……」


 抱いてはいけない感情が芽生えそうになるから。


「うん、今日はもうやらないよ♪ ギン君しつこいの嫌いだもんね♪」

「な……」


 なぜ小さい頃に数回しか会っていないこいつに俺の性格がバレているんだ……。


「なんでお前がそんなこと知っているんだ……」

「ギン君のママに教えてもらったんだー♪」


 やはり母か……母なのか!


「何の為にわざわざそんなこと……」

「何の為ってそれはその……」

「なんだよ……」

「う、うん……」


 くっ……頬を染めて急にしおらしくされても対応しきれない……。「鬱陶しい」よりも確実に「可愛い」が先行し始めている……非常にマズい……。


「あ、改めて言うと恥ずかしいから……や、やっぱ言わないっ♪」


 アハハと笑って頭を触りながら照れるミハイルに――

「グハァッ……!」


 まさかのデレツンだとぉおおおお……!


 あまりの衝撃に、気が付けば俺は床に倒れた。


「ちょ、ちょっとギン君どしたの!」


 三度目の四つん這いで慌てて近寄ろうとするミハイルに対し、片手を上げて制止させようと試みる。


「いや、なんでもない、なんでもないから近付かないでくれ……」

「そんなこと言ったって急に倒れたら心配だよー」


 このタイミングで心配した表情向けられても困る……。


「た、頼む……それ以上は……」

「ギン君っ」


 手をぎゅっと握られ絶壁に触れた。


「それ……以上――」



 耐えられん……――

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