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銀治「関西弁って言い方きつく聞こえますよね……はぁ……」

前回のあらすじ:彩芽が泣いた。

「ぐすっ……うぐっ……」

「だ、大丈夫ですか?」


 今更ながら言葉を直してみるがぎこちない……。

 公園の公衆便所の前で子どもに見える泣いた彩芽と二人きり。これはどう考えても見られたら通報される気がする……。


「と、とりあえずベンチに移動しませんかね?」

「うぅ……ひぐっ……う、ん……」


 泣きながらもなんとか頷いてくれた。


「一人で立てますか?」

「うっ……ん……うっ……」


 ゆっくりと立ち上がる彩芽の隣を歩いて一番近いベンチに向かう。


 この前も今日も、金髪に触られた瞬間の拒否反応が凄まじかったのは何故なのか……というのを今聞くのは無粋だろう。


 公園の隅、腰丈くらいの垣根を背に四人掛けベンチの端に彩芽が座った。

 真ん中に飛び出している肘置きの周りに買い物袋を置き、彩芽の反対側に腰掛ける。


 正面に広がる緑と隣で泣く彩芽……。

 玄関先で出会った時、階段を駆け下りた時、すれ違った時……、嫌と言われてもついて行けば良かった……。そうすれば、こんな目に合わなくて済んだかもしれない。


「うっ……うぐっ……」

「……」


 泣く彩芽を横目で窺う。

 よし、あいつら次彩芽に手出したら殴ろう。


「……っ」


 すすり泣く声が段々と小さくなってきた。


「ねぇ……」

「はい」


 涙を手で拭いながら彩芽がこちらを上目遣いで見つめてくる。


「その、助けてくれて……ありがと……」

「ええ」


 何ですかこの展開は……アニメですか漫画ですか天国ですか。中学高校の六年間を鍛えることに費やしたご褒美ですかねこれは……。


「私さ……」


 顔をこちらに向けたまま視線を逸らす彩芽の顔はどこか悲しげだった。


「は、はい」


 なぜか心臓がドキドキする……。


「男の人苦手なんだ……」

「え……」


 男の人が苦手……ということは男の人が嫌い……触られるのも嫌なくらいということか? つまり、俺の事が嫌い……。


「グッハァッ……!」


 ベンチから勢いよく前のめりに倒れて地面に四つん這いになる。


「なっ……急になに⁉」

「だって、嫌いって……」

「言ってない言ってない! 嫌いとは言ってないから!」

「あ……そうか……」


 自分で自分を傷付けてしまうとは……これがいわゆるブーメランという奴か……。


 自然に目線が彩芽の方へと向く。足のラインから太もも、彩芽の顔までゆっくりと見上げる。

 目を赤くした彩芽と視線が合う。


「いいから、座りなさいよ……」


 ムスッとふくれっ面でそっぽを向く彩芽。


「あ、ああ」

「……」


 ベンチに座り直して無言の状態が続く。


 目の前の自然が太陽に照らされている。

 何を話せばいいのか全く分からない……。関西弁だったことを先に言った方が良いのか? それともメールの事を謝るのが先か?


「……」


 と、とりあえず何か話さなければ空気が持たない――


「「……あ、あの」」


 同時に目が合う。心臓が跳ねるような感覚に思わず視線を逸らした。


 なんだこれ……カップルっていつもこんな状況を楽しんでいるのか……? この幸福は俺には耐えられんぞ……既に知り合った時点で一目惚れのようなものだったのに……。


「……」


 視線を隣に向ける。彩芽はスカートの上で両手をもじもじさせている。

 なんなんだこの可愛い生き物は……。


「あ、あのね……」

「は、はい」


 急な彩芽の呼びかけに声が上ずった。


「その、あれよ……メールの返事まだ貰ってないんだけど……」


 潤んだ瞳をこちらに向けて頬を赤らめる彩芽に胸の鼓動が速くなっていく。


「いや、それは……もう遅いかなと思いまして……」

「あっそ……」


 プイッと彩芽の顔が前を向く。

 泣いたり怒ったり顔を赤らめたり……。今も横顔の彩芽から目が離れない。


 ああ、多分、これが……好き……というものなんだろうな。


 ……でも、俺は紳士として振る舞おう――


「落ち着いたなら帰りましょうか」


 今更自分に決めたルールは破れない。

 すっと立ち上がり買い物袋を手に持つ。


「あ、いや、私持つからいいよ!」

「どうせ一緒のアパートですし、そこまで持ちますよ」

「あ……あんがと……」


 恥ずかしそうに彩芽の目が泳ぐ。

 そんな彩芽の姿に気付けば微笑んでいた。


「はい、どういたしまして」


 少し高揚している感情を抑えるために踏み出す足に力を入れる。


「あ、やば……早く帰らないと彩香心配してるかも……ってあれっ……」

「ん、どうしました?」


 ベンチから少し離れた位置で振り返ると、未だにベンチに座ったままの彩芽が居た。


「その、腰抜けちゃったみたいで……立てない、かも……」


 申し訳なさそうに頬をかく彩芽。


「立てないならタクシーか何か呼んで――」


 くそっ……そういえば携帯を持ってきていない……!


「いや……その……もう、少しだけ……」

「?」


 手遊びをしながら恥ずかしそうに呟く彩芽の言葉に疑問符が浮かんで首を傾げる。


「もう少しこのまま……でもいいかな、なんて……」

「はぁ……」


 このタイミングでそのセリフはズルくないですかね……。


「い、いいからさっさと座りなさいよ……」

「……」


 彩芽を見つめたまま立ち尽くす。チラチラこちらを見る彩芽と一瞬一瞬目が合う。


「な、なによ……」


 きっと、好きになることは許されなくても、隣で守るくらいだったら許されるだろうか……。


「なんなのよ……まったく……」

「いえ、なんでも……」

「んじゃ、さっさと座りなさいよ……」

「そうさせて頂きます」

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