銀治「あー……」
前回のあらすじ:あの時の!
茶髪と彩芽の手を掴む金髪が同時にこちらを振り向いた。
三人の数歩手前の距離で立ち止まる。
「な……」
彩芽が震えて今にも泣きだしそうなのが分かった。
俺は立ち止まったまま自分の視界を手で押さえた。
「あーだるいわ……」
自然と口から言葉が漏れる。
父みたいな正義感は持ち合わせていないし、警察なんて糞食らえだが……それでも嫌がる女の子を目の前にしちゃ耐えれんよなぁ……。
「ふぅ……」
汗で濡れた前髪を手でかきあげて気合を入れる。
銀髪美少女三原則その三、悲しませない。
「こいつ超汗かいてるじゃん、キモイんですけど」
茶髪がごちゃごちゃ言い始めた。
「はぁ……こっちはよう分からんままムシャクシャしとる言うのに……」
知らないうちに口から小さな愚痴が零れる。
「急になにそれ、前髪あげてため息とかダサいんですけど」
「あはは、だっせぇ」
しょうもない笑い声を無視して笑顔で眉間に皺を寄せる。
「お前らその子に何しとんの?」
「「……え?」」
――銀治、キレるとまさかの関西弁であった。
茶髪と金髪が一瞬止まる。
「急に現れてなに? ヒーロー気取りですかぁ?」
金髪が手を放さないまま問いかけてくる。
「何しとんねんって聞いてるんやけど分からんかな?」
俺は笑顔を崩さずに聞き返す。すると、隣にいた茶髪がこちらをじっと見つめてきた。
「……あれ、お前、良くみたらこの間の奴じゃん!」
笑顔がだんだん崩れてくる。
「いや、この間の奴かどうかはどうでもええから……そのきったない手、彼女から放しぃや」
「え、何々、やっぱ彼氏なの?」
「……っ…………」
金髪が彩芽の手を掴んだまま問いかけるも、彩芽は震えたまま動かない。
「さっさと手ぇどけろ言うとんねんけど分からんの?」
「え、何こいつ……関西弁とかキモいんですけ――」
半笑いの茶髪を一瞥して言葉を遮る。
「つべこべ言わんと今のうちに放しぃや、男が二人揃ってみっともない……」
「はぁ? お前、さっきから何カッコつけてんの?」
金髪が彩芽から手を放してこちらへと近寄ってきた。
「そういえばさー、この間はよくも大学で恥かかせてくれたよなー?」
「なんの事言うてるんか分からんわ」
「謝れよ」
真正面で金髪と睨み合いになり、軽く肩を押された。
眉をしかめて睨み返す。
「お前が彼女に謝りぃや。彼女怯えとるやろが」
「カッコつけんなって!」
金髪の右足が構えた直後に振り上げられる。
「っ――」
角度的に左腹部に直撃する流れなので右手を当てて勢いを弱めつつ左腕を金髪の右足に絡める。そのまま金髪の足首を右手に持ちかえて左腕を自由に――
「なっ……うわっ……放せよ!」
掴んだ足を突き放す。金髪がよろけながらも態勢を立て直した。
「気ぃ済んだやろ」
「てめぇ……気取ってんのも大概にしろよ……」
「喧嘩なんか意味無いねんからやめとき」
「ふざけんなクソが!」
「やめとき言うてんのに……」
「うるせえ!」
右拳、顔正面で鼻を直撃する流れ――左手で軽く受け流しつつ、そのまま手首を左手で掴み取る――金髪の腕の部分を右手で鷲掴んで――勢いを殺さずそのまま背負って――
「せいっ」
「うぐっ……!」
背負い投げ終わりの姿勢を戻して手を軽くはたく。
「多分勝たれへんからやめとき」
「いってぇ……くっそ……」
動いたせいで乱れた髪をもう一度かきあげる。
「茶髪の人は?」
「え?」
「え? やなくて、やるんかやらんのか聞いてるんやけど?」
茶髪が俺の顔と金髪を何度か見比べる。
「いや、俺は大丈夫っす……」
「そうか」
「……」
すり足で荷物を持ったまま遠ざかろうとする茶髪を呼び止める。
「その荷物、彩芽さんのとちゃうん?」
「は、はい! 置いて帰ります!」
ビクビクしながら返事を返す茶髪に近付く。
「え、な、なんすか……」
「持ったるから荷物渡しぃや」
「は、はい!」
茶髪から買い物袋二つを受け取る。
「ごめんやけど、ついでに金髪の兄ちゃん起こしたってくれんかな……イラついてたから勢いつけてしもうた」
「は、はい! 分かりました!」
金髪の腕を持ちあげて起こしてあげる茶髪。
多分、本当はこいつ優しいんやろうなぁ……。
「ほら、行こうぜ……」
「くっそ……絶対許さねぇからな……」
よろけながら立ち上がる金髪が睨みつけてくるので睨み返す。
「三度目はほんまに許さんで」
「くそが……!」
「お、ちょっ……」
茶髪の手を振りほどいて立ち去って行く金髪。
その後ろを茶髪が小走りで追いかけていく。
「はぁ……だから都会の人間嫌いやねん…………あっ……」
手出したの父にバレたら殺される……けど、まぁええか……。
今はそんなことよりも――
しゃがんだまま震えている彩芽に近付く。
上から声をかけてみる。
「大丈夫?」
彩芽の目の前で屈んで様子を窺って……スカートの際どい部分が視界の下の方にチラつくので買い物袋をそっと前に置く。
「そんな怯えんくても……⁉」
震えたまま何も話さない彩芽は、麦わら帽子の下で静かに泣いていた。何がそんなに怖いのか分からんけど、俺には慰めるしか出来ない。
「……もう大丈夫やからな」
ぽんぽんと帽子の上から頭を優しく撫でてみる。
「うぅ……うっ……うぅ……」
あれ、なんかマズかったか?
「え、あ、その……」
「うぅ……うぐっ……ひぐっ……」
「いや、その、泣かんといて――って、ハッ……!」
ぽろぽろ泣きだす彩芽を前に思わず我に返る。頭を抱えて丸くなる。
「うわ……俺めっちゃ関西弁出てるやんか……あんま喋らんから大丈夫やと思っとったのに最悪や……あぁああ……」
やってしまった……。言い方きついから関西弁使いたくなかったのに……あぁあああ……。
作者「銀治さん先に帰っちゃった……」
作者「お茶いかがですかー」(*´ω`)つ=旦
作者「あざますー」旦('ω'*)キャッチ
作者「……(´_ゝ`)旦」
作者「( ;∀;)」




