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銀治「久しぶりに筋トレとランニングでも――」

前回のあらすじ:彩芽がデレた!

「あんた、前来た時、その……元気なかったし……大丈夫かなって……――ぁあああああ何言ってんだ私ぃ!」


 頭を抱えて狂喜乱舞の彩芽。


「……もしかして」

「なっ、なによ!」

「心配してくれてたんですか?」

「なっ……!」


 彩芽がムキになってこちらを睨みつけてくる。


「は、はぁ⁉ 心配なんかしてないし! 変態の心配なんかしてないし! メール返してこない事にイライラしてるだけなんですけど! もうっ! ちょっと、買い物行くんだからそこどいてよバカ!」

「うっ……」


 近付いてきた彩芽に玄関側に蹴飛ばされ、鉄の扉に頭を打ちつけた。


 水色パン……いや、蹴られる瞬間に見えたのは黙っておこう。


「ふんっ!」


 彩芽がそのまま歩いていく。

 左にある鉄の階段を降りようと階段の手すりを掴もうと……したが、高さが合っていないのか掴もうとしてやめた。


 可愛い……じゃなくて――


「ちょっと待って――」

「知るかバカ! 変態! そのまま散りくたばれ! ばーかばーか!」


 めちゃくちゃだ……が、そこがまた良い……。これがツンデレの魔力なのか……。

 守りたいあの笑顔……。


 立ち上がって二階の手すり越しに歩いていく彩芽を見つめる。プンスカしながらアパートの敷地を出て行く。


「……」


 ……近付いてしまえば好きになってしまいそうで、その度に自分に課した戒めが蘇る。誰とも付き合わない。人を好きになってはいけない……。


 彩芽ともっと話したい想いと自分への戒めが頭の中で駆け巡る。


「ぁあああ……らしくない、らしくないぞ銀治……」


 髪をくしゃくしゃにして雑念を振り払う。


「よし、とりあえず走ろう」


 階段を駆け下りて屈伸、手首足首回して――


「よし」


 アパートの敷地から大学と反対方向に向かって走る。

 一車線の道、目の前を彩芽が歩いている。


「……」


 今はまだ話しかけないでおこう。気持ちの踏ん切りが付かないまま話しかけるなんて相手に失礼だ……。


「ぁ……」


 彩芽の隣を走り去った。後ろで微かに聞こえた。だが、今は無性に走りたい気分なのでそのまま走り続ける。


 人気のない路地裏を走っていく。大通りに面した所は人が多いので絶対に行かない。同じ大学の学生らしき集団が出歩いているかもしれない。基本的にリスクは避けるべきだ。


「はぁっ……はっ……」


 だんだんと汗が滲んでくる。

 そういえば、大学と家の行き来しかしないから、この辺の土地ってよく知らないな……。

 まぁ、迷子にはならんだろう。


 少し飛ばそう。


「……はっ……はっ……」


 息が上がる。

 呼吸が荒くなる。

 吸い込む量が減っていく。


「はっ……はっ……」


 喉が乾いてきた……が、財布は持ってきていない。走りながらポケットを確認するも鍵だけしかない。


「あ、やば……」


 ゆっくりとスピードを下げてひと気の無い路地を歩く。


「ここ……どこだ……」


 走り回った挙句、迷子……スマホも置いてきた……。

 くっ……まさか大学生になって道に迷っただと……?


 と、とりあえず見覚えのある道を辿ろう。まずは大通りに出ればどうにかなるだろう。


「しんど……」


 汗をジャージで拭う。久しぶりに走ると気持ちいいが、体力落ちすぎだろ……。


 大通り、片側二車線の国道に出た。道路上の書かれた標識を見てもどこかサッパリ分からない。

 今何時だろうか。


「汗が止まらん……」


 ジャージで汗を拭いながら、なんとなく来たであろう道に向かって歩いていく。


「お、あのスーパー……」

 見通しの良い真直ぐの車線に大きなスーパーが見えた。確か、あのスーパーを通り過ぎて左に曲がれば大きな公園に辿り着くはず。そこからなら帰り道も分かるか。


 目印を発見したので再びランニング開始。

 歩道の数人を追い抜かしてひたすらスーパーを目指す。


 駐車場が手前に見えて奥の方にスーパーの建物。


「はっ……はっ……」


 駐車場の真ん中には細い鉄柱の上に大きな丸時計が付いていた。

 十二時過ぎか……ちょうど一時間くらいか。


 帰るか。


 スーパーの角を曲がって一車線の道、公園の芝生が見えた。

 大人の膝丈くらいしかない柵の向こう側には、柵と並行するかのように点々と四人掛けのベンチが並んでいた。


 無駄に広い公園……平日の昼食時だし、さすがに人の気配はないか。


「あ……」


 公園突っ切れば近道かもしれない。

 ふとした好奇心で柵を乗り越えて芝生を踏みつける。アスファルトとは違って柔らかい感触が靴の下から伝わってくる。なんだか懐かしい。


「っ……!」


 目の前を飛び交う虫が鬱陶しい……さっさと走り抜けよう……。


 足を上げて助走をつけようとするも、足が「もうやめて……」と訴えてきた。いや、自分自身で限界を決めているだけ……だが、さすがに疲れたな。虫を避けながら歩こう。


「すー……はー……」


 真直ぐアパートの方へと向かって呼吸を整えながら歩く。


「ん……?」


 視界にの端にこじんまりとした建物と人影が映った。

 こんな平日の昼間から大人二人と子どもらしき姿。自然と目が寄っていく。


「あれ……」


 十メートルほど先には何か見覚えのある金髪と茶髪に……彩芽が居た。公衆便所の前で何をしているんだろうか。


 茶髪の手にはスーパーの買い物袋。彩芽は嫌がっている素振りを見せているように感じる。

 少しずつ距離を詰めていく。


「っ!」


 金髪の手が彩芽に触れた。嫌な予感がして走る。無性に腹が立っている俺がいるのはなぜなのか……。


 駆け寄りながら息を吸い込み声をかける。


「おい!」

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