銀治「天使って眩しいですね……」
前回のあらすじ:大学の校門近くに居た!
目を見開いて記憶のハードドライブに録画開始っ。
「うるさっ……」
「何、こいつ……」
男の会話は記憶から消去だ。必要ない。
「えっと、たしか銀治ー、やっほー」
俺に対して笑顔で手を振ってくれる彩香。
「や、やあ」
あまりの可愛さに挨拶がぎこちなくなってしまった。落ち着くんだ俺。紳士として振る舞わねば……!
「……」
彩芽は無言のまま青い綺麗な瞳を別の方へと向けて沈黙している。なんとお美しい姿……。
「や、やあ……」
手を振って様子を窺ってみる。
「……ふんっ」
目も合わせてくれない……だとっ……。
「そんなっ……くぅ……」
あまりのショックでその場に崩れ落ち、四つん這いの恰好で今日二度目の絶望を体験してしまった。ふむ……よく考えてみるんだ銀治。銀髪美少女である彩芽がそっぽを向いているということは、つまりツンデレの「ツン」が発動しているということで間違いない。つまり、これも俺にとってはご褒美じゃないか?
――銀治は銀髪美少女に対してだけはポジティブであった。
「何なのこいつ、下向いたまま笑ってるんだけど……まさか君たちの知り合いじゃないよね?」
「うーん、知り合いっちゃ知り合い、なのかなー……」
彩香が悩まし気な口調で話している。もしかして俺は知り合い以下なのか。妹の白パンダイブを食らった俺は知り合い以下なのか……。いや、顔見知りを通り越して白パンと見知っている以上、知り合い以下な訳がない。
これはつまり、知り合いよりも上の存在だということ。
知り合いではなくパン見知りだ!
――もう既に銀治の思考はズレていた。
「何それー、面白いんだけどー」
「こんな奴放っておいて遊びに行こうよー」
「む……」
地面を向いていた俺の視界の端で男の足が前へと進む。
「いや!」
男の足が一歩前に出た直後、彩芽は本気で嫌がっているように声をあげた。
「ちょっと……そんな拒否んないでよー」
目線を上げると茶髪が彩芽の手首を掴んでニヤけている。なにそれ、俺がやりたかった事をなに先にしてくれているんだ。ありえない。ありえないっ。
彩芽は泣きそうな顔で一心不乱に茶髪の手を振り切ろうとしている。
「いやっ! 放して! 触らないで!」
「ちょっとなになにー、抵抗するとか可愛いんですけd――」
「ごめんねー、妹から手どけてもらえるかなー」
少し怒った声で彩香が呟くが、茶髪は気にしていないようで……。
「なに妹なの? 姉が美人で妹が可愛いとか最強過ぎっしょ」
金髪が彩香へと近付こうとするが、もう見てられん。
「ねーねー、遊びにいこっ……ってうぁっ!」
金髪の足元を右足で蹴り倒し、後ろ向きに転倒する頭部に左足を持っていく。俺が手を繋ぎたかったというイライラが溜まっていたのか、思わず左足の膝の部分を立てて金髪の頭部に当ててしまった。
「いってぇ……くっそ……」
金髪が一人で地面でもがいている間に隣ですっと立ち上がる。
「よいしょっと……」
「おいお前、何してくれてんの?」
振り向いた茶髪が俺に向かって怒っているみたいだが、そんなことよりも彩芽を握っていた手が離れているかが気になる。
「よし……」
茶髪の手は彩芽から離れているので良しとしよう。
「なあ、お前さぁ、なに無視してくれてんの?」
いつの間にか目前に茶髪の顔が……近っ……近っ!
「あの、すみません、俺そっちの趣味ないんで離れてもらっていいですか……」
「うっ……」
一歩だけ後ろに下がってくれたけどまだ近いんだよな……。
「あの、もう少しだけ離れて――」
「くそが、なめんな!」
何にキレてるのかいまいち分からん……。大体、「なめんなよ」ってどういう宣言なのだろうか。
文句があるなら殴ればいいのに……って――
「ハッ!」
彩香が妹を抱き寄せて心配そうにこちらを見つめている! 尊い! 尊過ぎるっ!
二人の背景が天から光が差し込み雲まで見える! なんと美しい! 天女だ!
「お前、さっきからどこ見てんだよ……!」
「天使と女神」
――銀治の中で学生のチンピラは既にアウトオブ眼中である!
「キ、キモ……」
「キモくて結構です」
ふん。茶髪がドン引きしているが、その反応は高校の三年間でやり尽くされたので何も感じない。感じるわけがない。
「ケッ……シラケたわ。おい、行こうぜ」
「つ……」
擦れ違いざまに肩を思い切りぶつけられた。うざっ……いけど、目の前に素晴らしい景色が広がるので怒りの感情が湧かない。
これが天使と女神の力だとでも言うのかっ!
「……くっそ、お前良い気になるなよ……」
金髪と思われる声が聞こえた。
「……」
だが、後ろの声よりも気になることが目の前で起きていた。
彩芽が震えている。
「おい、無視すんなよ!」
掴まれたことがそんなに怖かったのか? いや、それにしても様子がおかしい気がする。
「お、おい、早く行こうぜ……」
「クソが。しんじまえキモオタ野郎!」
「……」
とてつもない悪口が遠ざかりながら聞こえてきたが、そんなことよりも。
「なんと眩しい……」
震えて泣きそうな天使を女神がそっと抱きしめている姿がいとおかしなので、このまま少し鑑賞。
心のカメラに保存する。




