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彩芽「大体、アニメでも現実でも大学の前に立ってる人はやばいと思う」

前回のあらすじ:とりあえず寝起きのスマホゲー。

 ――デーデデッデー、デッデッデッデー、デーデデッデッデー。


 八時にセットしていた渋めの目覚ましが流れ、


「彩香ー、時間だよー」


 がっしりホールドが解けないままの彩香の顔を見ながら声をかける。


「もちょっと、ちょっとだけー……」


 むぅ……。

 さっきよりも強めのごつんをお見舞いすると、痛みに反応してようやく身体が彩香の縛りから解放された。


「いったーい……彩芽ーひどいー……」


 横で丸くなりながらおでこを押さえる彩香を無視して立ち上がる。


「こちとら寝てないっつーの……」


 着替えを持って脱衣所に向かう。


「あれ、ここで着替えないの?」

「いっつも邪魔するからやだ」

「えー……」


 頭を押さえた状態で残念がる彩香。


「えー、じゃないっ」


 ふんっ。

 脱衣所に入りスライド式のドアを閉めてからつっかえ棒を差し込む。


「ふぅ……」


 やっと落ち着ける……。

 パジャマを洗濯機の中に放り込んでっと。もう私は初日のようなミスはしない。今日は膝下まである水色のワンピース。


 ミニスカートなんて履かない……絶対に履かないもん……。

 ドンドンと扉を叩く音がする。


「彩芽ぇ……彩芽ぇ……」

「ひっ……」


 亡者のような声が扉の向こうから……。


「な、なに……?」

「一緒にお着替ぇぇ……」


 着替えは終わっているのでつっかえ棒を取って扉を開ける。


「ふっふーん、もう着替え終わってるよ」


 腰に手を当てながら勝利のポーズ。


「……」


 反応がない。


「ん?」


 見上げた姉は泣いていた。


「うぅ……そんなぁ……」

「ほら、顔洗って歯磨いてっ、ご飯食べて大学行くよ」

「はーい……」


 肩を落として悲しむ彩香。いやいや、どんだけ落ち込んでんのよ……。


 朝の用事を済ませて、居間のテーブルに姉と向かい合わせで朝食をとる。


「トーストにバター、彩芽が目の前に……うん、美味しいなー」


 彩香は満面の笑みでトーストにかぶりついて頬張っている。


「私をその並びに混ぜないで……」


 ……まぁ、一人よりは誰かと食べる方が美味しいのは認めるけど。

 モシャモシャと、両手でトーストを持ちながらちょこちょこかじっていく。


「彩芽はリスみたいで可愛いねー」


 ニッコリ目の前で見つめてくる彩香。


「うっさい……」


 口が小さいからかぶりつこうにもかぶりつけないだけだっての。

 朝食を食べ終えた後、部屋に戻って念のためリュックに入れたノートと教材を確認。


「彩香ー、今日って三限までだよね?」


 部屋の真ん中にある仕切られたカーテン越しに着替える彩香に問いかけてみる。


「んー? そうだっけ?」

「はぁ……」


 なぜに疑問形なの……って、彩香に聞いた私が悪いか。自分で確認するのが早いのが分かってるのに聞いてしまうのはなんでだろ。


 姉が頼りにならないので、とりあえず自分で今日の時間割を確認。


「一限目が英語、二限目に心理学、お昼挟んで三限目が情報か……」


 興味あるやつをとりあえず取ったけど、英語も得意じゃないし、情報もパソコン使うらしいし嫌だなぁ。


「……あ、時間」


 一限目が始まるのは九時ジャスト、今が……八時半だから余裕あるな。


「ねーねー彩芽ー」


 カーテンを下からまくり上げてこちらに顔だけを覗かせる彩香。壁に持たれながら足を曲げてスマホをいじっていた私は、ちょうど彩香の正面に座っていた。


 彩香はじっとこちらを見つめている。


「なに?」

「うーん」


 目を凝らして見つめてくる彩香。


「なんなの?」

「うーん、ギリギリ見えないなぁって……」

「何が」

「パンツが?」

「なっ……!」


 曲げていた足を伸ばし太ももの間のワンピースを押さえて防御態勢に入る。


「いや、見えてないから大丈夫だよ」

「はぁ……」


 至って真面目な顔で話す姉にため息が出る。


「バカ言ってないで早く行くよ……」

「はーい!」


 笑顔で返事を返してきたものの、彩香の準備が出来てなくて家を出るまで十分以上待たされた。


 リュックを背負って大学まで彩香と一緒に向かう。

 歩いている最中、眠たそうにあくびをする彩香がにんまりした顔で呟く。


「いやー、春だねー」

「うん」


 眠いなぁ……。


「朝の風が気持ち良いねー」

「うん」


 今日は三限で終わりだし、家帰ったら寝よう……。


「彩芽?」


 名前を呼ばれて彩香の顔を見上げると心配そうにこちらを見つめていた。


「なに?」

「なんだか冷たくない? ツンなの、今はツンなのかい?」

「うっさい」

「あぁ……彩芽が冷たいよぉ……」


 隣で頭を抱える彩香を無視しつつ、大学へと向かう。大学の北入口が十メートルほど先に見えてきた時、門の前に二人のおばさんが立って学生たちに何か配っているようだった。


「……」


 ああいうの怖いんだよなぁ……他の学生の後ろについて歩こう。


「お姉ちゃん」

「おっ、ようやくツン解除かな?」


 嬉しそうにする姉は無視して話を続けよう。


「入口に立ってる人たち、なんか嫌だからあの人の後ろ歩いて身代わりにしよう」

「ん?」


 状況が飲み込めない彩香がおばさんと目の前を歩く男子学生を指差しながら私に確認した。


「うん? ただのおばさんじゃない? それにあれ――」

「いや、ああいうのは絶対宗教勧誘だよ」

「そんなアホなー、彩芽はアニメの見過ぎだってー、あははー」


 馬鹿にしたように笑われた……。イラっとして頬が自然と膨らむ。


「もう、とりあえずあの人身代わりにするよ」

「身代わりて……あの人――」

「しーっ」

「はいはーい」


 目の前に見える黒い髪の毛の男子学生の後ろを彩香とついて行く。茶色い肩掛け鞄、背丈もなんだか見覚えがあるような……。



 おばさん達との距離は既に近くなっていた。

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