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40 お一人様は快方に向かう

 翌日、ドカーンという大砲の音で、目が覚めた。


「なな、何?」

 ドカーン!ドカーン!と音は続く。

「だ、誰かいる〜!」

「「は〜い!」」


 かちゃりと私室のドアが開き、ケンとマイがくるぶしまである神官服なのに器用にスキップして入ってきた。

「おはよう、巫女様!」

「どったの?巫女様?」


「いやだって、何あの砲撃!また戦争が始まったんじゃ?」

「えー巫女様何言ってんの?」

 ケンが右に首を傾ける。

「あれ、巫女様への祝砲だよ?」

 マイが左に首を傾ける。


「へ?」


 夜明けとともに、私の目覚めが全世界に発布された……らしい。

 そして、世界中の民が、これ以上の天罰はもう下らない!と安心して、歓喜に沸いた、そうな。


「ほほ〜」



 ◇◇◇




 ゆっくりと朝の神事を務め、病人食のおかゆもどきをいただき、おじいちゃん医官の診察を受けたところで体力の限界が来て、ひとまずベッドに横になる。まだ午前中というのに……


「巫女、目を瞑ったら?」

 コリンが私の脈を取りながらすすめる。

「眠くはないのよ。脱力してるだけ」

 何年寝てたと思ってる?


「そうか……今日は、巫女の復活を寿ぎに大祭壇は大賑わいだよ。まあ想定内だから混乱はないけれど。各国の大神官や元首の面会の要望が山のように来てる」


「うわあ、めんどくさい。神官たちにはいずれ挨拶しようとは思うけど、その他は会わなきゃダメ?」

「会いたくないの?皆感謝しているとは思うけど?」


 コリンの言うように感謝はしてくれているだろう。

でもあっという間に何百という人間を葬った『依り代』という名の人外と通常の私を別のものと考えることができるだろうか?神官以外は、頭で納得しても、心が怯えるのではないだろうか?人と違った……それも極端に異端な存在と、気安く共存できるだろうか?私の力にすり寄る人間もやがて出てくるんではないだろうか?

 神殿としても初めてのケースで戸惑っていることだろう……これまでと違い、私が生き延びてしまったから。


「できれば会いたくない。顔割れしたくないわ。私は普通の生活がしたいのよ」

 前回の一般参賀から時が過ぎて、私の顔など忘れられたはず。


コリンは小さく頷いた。

「巫女の御心のままに」


 結局、私が眠る前の、面会ルールのままとなった。とはいえ、それも体調が万全になってからだ。


 私は双子の可愛いおしゃべりを聞き、お休みになられているカルーア様の枕元で針仕事をしながら、養生する。


「巫女巫女、オレたちこないだ神官の試験受けたんだ。合格したかなあ?」

「やだスゴい!攻めてるわね!私は神官試験受けてないからなー。まあダメだったらもう一度勉強し直して、また受ければいいじゃない?そんなに難しかったの?」

「ん?わかんない。途中でマイと入れ替わって解いてもらったから」

「おいーーーーーー!」

 コリンが絶叫する。


 くっくっと小さな笑い声が聞こえて振り向けば、カルーア様が目を覚まされていた。

「全く要領のいい……コリン、ここだけの話にしてあげなさい」

 カルーア様に……とっても久しぶりに話しかけられ、コリンは涙を浮かべ言葉に詰まるも、ふざけてみせる。

「カルーアさま〜双子に甘すぎます〜!」


「ふふふ、問題なかろう?私はもう大神官ではない。ただのじじいだ」

「えーじじいってカルーアさまに似合わないよう。おじいちゃんがいい!」

 マイが無邪気に横になっているカルーア様の胸に抱きついた。


「そうか?ではマイのおじいちゃんになろうかな?」

「わーい!おじいちゃんできた〜!」

「マイばっかりズルい!オレもオレも!うわー、もう寝てる〜!」


 カルーア様はほんの少しずつ、起きている時間が増え、意識もはっきりしてきたように見える。私がそっと感謝の祈りを口ずさむと、コリンと双子も声を揃えてくれる。


「そっか、カルーア様はケンとマイのおじいちゃんねえ……じゃあ、カルーア様も、アパートにお誘いしようか?」

「私たちのおうちに?さんせーい!」

「おおっ?巫女様とオレとマイの三人家族じゃなくて、カルーア様も入れて四人?うわあ、絶対楽しそー」


 随分と寄せ集め感があるけれど、家族になれると確信している。私たちは同じ経験を共有しているのだ。それは苦しくつらいものだったけれど、貴重な絆に違いない。


「はーい、アパートの隣にはこのコリンも住みますよ〜!早く引越したい人は、さっさと元気になって、さっさと下級神官の資格をきちんと取りましょーう」


 ケンとマイは私とともに一旦神殿を出て街に降り、パニーノの例の学校で学んでもらうつもりだ。子供らしい時間を作ってあげたい。

 しかし、神官という身分を与えた上でそうした方がいいというコリンのアドバイス。私がなんらかの理由で守れなくなったときに、神官の籍があったほうが神殿の権力で二人を守ることができる。とにかく双子は美しいから。成長し、ますます磨きがかかってきた。


「「「ほーい!」」」


 今回の試験、双子は綺麗に落っこちた。テリー様は甘くなかった。





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