37 魂分神官は奔走する
私は巫女を抱き上げ神域に向かう。チラリと床に倒れるミトを見て顔を歪めると、同僚が、
「ミトは任せろ!」
と言ってくれたので、心おきなく走り出す。
神域につき、森を駆け抜け、聖なる泉に入る。
こんなにも……冷たかったとは……私は巫女のこと、わかったようでわかっていなかった。
あのように躊躇なく、神殿の家族のために、自らの命を投げ出すなんて……。涙がにじむ。
泉の神力で巫女の首の傷が瞬く間に塞がれる。巫女が毎日祈る巨石に巫女を横たえると、ちょうど顔だけ水に浸からなかった。
「コリン!」
息を切らしたカルーア様がやってきた。ジャブジャブと水に入り、巫女を挟んで私の反対側に立つ。
見たことのない鬼気迫る顔で聞いたことのない祝詞?を呟き、両手を複雑に動かす……印!大神官だけに伝わる秘儀か?
左手を巫女の心臓に置き、右手はその手首を掴む。
「マール!お願いです。戻っておいで!」
カルーア様から、じわじわと気が、巫女に流れていく!カルーア様の手のひらがほのかに白く光る。
私は泉の水を手ですくい、巫女の頭を撫で髪をすき、体中に飛んだ血を流す。そっとに水をかけて拭うと……しつこく残っていた頰の傷が消えた。
サジーク王妃も……消えたということか……私たちの……愛するルクスは……
あたりは暗くなった。どれだけ時間が経ったのか?巫女がすうっと鼻で息を吸い込むのがわかった!思わず目を見開く。巫女を……我々は取り戻したのだ!よかった!
しかし、その瞬間、バシャッと音を立てて大神官様が後ろ向きに倒れ泉に沈んだ!!!
「カルーア様!!!」
慌てて巨石の反対側に回り、カルーア様を抱き上げる!カルーア様の顔は色を失い、完全に意識を失っていた。
どういう仕組みかなど若輩ゆえわからないが、おそらく御自分の生命力を……巫女に移されたのだ……全て!
「いかん!誰か!誰か来てくれー!」
カルーア様もすぐさま治療しなければマズい!しかしここは神域、信心深い神官は禁を冒してここに入ってくるはずがない!しかし、私が大神官様を神殿に運べばここに巫女を一人残すことになる!何かあったらどうする?ありえない!どうすれば!どうすれば!どうすれば!
「ぎゃーーあああああ!!!」
「みこー!カルーアさまーああーんあんあん!!!」
泉の岸の大樹がガサリと揺れたと思えば、そこに双子が突っ立っていた!
神よ……!でかした!畏れを知らぬ!私たちの、大切な神殿の子ども!
「よく来た!ケン!『魂分』の名のもとに許す!泉に入れ!ここを離れず巫女様をお守りしろ。私は大神官様を中に連れていく。マイ、おまえは伝令だ!巫女とケンに何かあったら、すぐに中に走って伝えるのだ」
「「はい!」」
ケンがバシャンと飛び込み、慣れた様子で泳いでくる!全く!
この子たちのことは、とっくに神もご存知のはず。具現されたときも天罰を下さなかった。毎日祈りを捧げるこの子たちも愛し子なのだ。ケンは巫女の下へたどり着くと、背伸びしてようやく水から首が出る状態で巫女の左手を握りしめた。
「うううっ!巫女様……冷たい……」
「ケン、頼んだぞ!出来るだけ早く戻る!」
巫女の胸の上で、男同士グータッチする。ケンの瞳に並々ならぬ決意を見て、安心してカルーア様を横抱きにし、岸に向かい歩く。軽い……。ここまで短時間で痩せて……体力まで流し尽くしたのか……。
岸に上がると、
「コリン!カルーア様大丈夫なの?」
「みんなで力を合わせよう。マイ、これからもっと暗くなるけど大丈夫か?」
「うん!」
泣きそうなマイがあまりにいたいけで、手が塞がっているのでマイの頭にキスをする。マイは大神官様の頰にいつものようにキスをする。
「ここを任せた!」
「「わかった!!」」
私は水に濡れまとわりつく服にイライラしながら、全力で建物に走った!
◇◇◇
カルーア様の衰弱は激しく、命を手放す寸前だった。高度な治療が必要。テリー神官長はまだ戻られておらず、神殿は混乱している!そしてミト!
しかし私は泉に戻らねば!神域に入れるのは私だけ。
いや……もう一人いる。
先ほどのサジーク王の話が真実ならば、何をおいても駆けつけてくださるだろう。
「至急国に連絡しろ、医者の応援要請と、王太子妃様のご助力をお願いするのだ!」
我々全ての神官は、八代目巫女ルビー様に頭を床にこすりつけて、謝罪せねばならない。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本作は本編46話でして、残すところあと10話になりました。
佳境に入りますので、本日で一旦感想を止めます。
完結しましたら、感想、誤字報告ともに再開します。
それでは今後とも宜しくお願いします m(_ _)m




