10 お一人様はオネエと会う
デュラン様がお貸しくださったミトは、今年18才、茶色い髪にオレンジの瞳のとてもステキな女の子だった。
せっかく指導してくれるならばと現在神殿に住むルクス以外のチビッコ全5名、年齢に応じて教えてもらうことにした。
ミトも暗部?だったのだろうけど、表の世界に出たからには怪しくないように、バッチリ普通の神殿の使用人の制服……女性はエンジ色のワンピースを着てもらったが、
「巫女様、これでは護身術などできません」
たしかに。
ということで、スカートの両脇に大きくスリットを入れて黒のくるぶしまである細身のパンツを履いてもらった。当然背も高くスタイルの良いミトは華麗に着こなした。前世のアオザイ風で素敵。
それを見てチビッコたちもお揃いを着たがり、女の子たちはミトのスモールサイズ、男の子は紺色のチュニック丈に黒パンツを作ってやった。
神殿の中庭で、みんなで声を出して稽古している様は道場のようだ。見ていて微笑ましい。
ケンとマイは二人一緒だったためか、案外神殿に馴染むのが早かった。他の子供たちと一緒に神殿の掃除をして、勉強をして、体を動かして過ごしているといると、思ったよりも早く、彼らの出身地がわかった。デュラン様が動いてくださったおかげだ。
結論を言えば、悔しいことにケンとマイの両親は誘拐犯によって殺されていた。同じ村の人々によって既にお墓に葬られていた。神殿の名を出すことで、両親の遺品を回収する。
そして私とカルーア大神官様で二人に真実を話し、遺品を二人に渡す。ご両親の葬儀は私自ら行った。自分で言うのもなんだけれど私が行う祭祀は、世界の最高ランクだ。
だからといって、ご両親が戻るわけでもないけれど。
「ケン、マイ、これからも二人は、誘拐犯に狙われる恐れがあります。今度そんな目にあった時は、隙をついて逃げれるくらい、強くならないとダメ!だから誰よりも真剣にミト先生に鍛えてもらいなさい!」
「「はい!!」」
私に言われるまでもなく、死にかけたことのある二人は、他の子供とは目の色が違った。本気だ。
大きな子供たちが勉強時間のとき、双子とミトと手を繋いで森の広場に散歩にいく。
私が大きな声で歌うと、双子の声も徐々に遠慮のない声になる。
色鬼を全力でやって疲れ果て、私の膝で寝るマイと、草の上で大の字になって寝るケン。
マイの髪を解きながら、風がサヤサヤと葉っぱを落とす音を聞く。
「子供の扱いがお上手ですね」
ミトから声をかけられた。少し私になれたのかな?
「慣れね。もう何人私の前を通り過ぎていったかしら……30人くらい?みんな一緒。みんな疲れたら可愛い顔して寝るの」
「……羨ましいです。物資の量の問題ではなく、ここほど子供が普通に安心して暮らせるところはない」
俯いているミトの表情は伺えないけれど、辛い過去があるのだろうか?
「そう言ってもらえると、嬉しい。ケンもマイも……傷ついているもの」
「そうですね。毎夜うなされてます」
やっぱり……でもケンとマイだけ添い寝したら他の子供が僻むしな……ってことで、
「よし、明日はお泊まり会にしよう」
「お泊まり会?ですか?」
「そう。今の子供メンバーでは初めてね。夜の神殿をね、ロウソク一本で肝試しして、そのあと大祭壇で全員で雑魚寝するの!」
「それは……怖いですね」
「ふふふ、ミトも参加よ!」
「ご、ご命令であれば」
ん?
「私の命令、聞いてくれるの?」
「……巫女様が危なくない範囲ならば、とデュラン様に仰せつかっております」
「じゃあ、命令、マイの真似して、私の膝に頭、のっけなさーい」
「は?」
「ほら、早く!」
「で、でも護衛が……」
「ここ腐っても神域だから。熟睡しろなんて言ってない!命令命令命令〜!」
「は、はい!」
ミトはオロオロと、私の膝に頭を乗せた。重い!でも美人が膝に二人!眼福!
マイとミトの髪を交互に撫でる。
「どうして……」
「気持ちいいからよ、私が。可愛くて頑張る子ばっかりで、本当に幸せ!」
「巫女様は……変です……」
ケンがムクリと起き上がった。
「あれ?ミト先生も巫女様のお膝で寝てる!」
「ち、違う!」
慌てて体を起こそうとするミトに私は迷わずゲンコツを下ろす!
「い、痛い……」
「騒ぐな!マイが起きる!」
「へー、これでミト先生も僕たちと一緒の『神殿の子』だね!」
私の『神殿の子供たち』。みんな健やかに巣立ってね。
子供たちとのなんてことない日常が、私を元気な『巫女』に戻してくれる。
◇◇◇
今日は待ちに待ったオネエとの面会日。ナターシャはその大きな筋肉でたくさんの見本布地を持ってきてくれるので、どうしたってワクワクする。
それに、子供たちのためにハギレも同業者にまで声をかけて持ってくる。ハギレも寄進だと言えば進んでくださるそうだ。皆現金は無理だけど、子供たちのために何かしてあげたいという気持ちはあるのだろう。
で、私の要望に合わせて、その場でサラサラーっとフリーハンドで型紙を起こしてくれる。
あとはそれに合わせてハギレを切って、私がちまちま夜なべ手縫いするだけ。
応接室のソファーやテーブルを脇に寄せて出来た広いスペースに、清潔な敷物を敷く、この場に布地を広げて見比べられるように。
「巫女様〜!」
バタンと勢いよくドアが開き、二メートルの大男が入ってきた。
ゴツい体つきにフィットした、白いフリルつきのブラウス。真っ赤なパンツに太い黒のベルトを締めて、凶器のように先のトンがったパンプス……っていうのにも目を奪われたけども、
「ナターシャ、その頭、どうしたの?」
黒髪をうなじでふんわり結んでいたのに、本日は肩下のカールした金髪だった。うっすら生えてるヒゲは黒なんだから……やっぱりおかしい。
「うふふ、よく出来てるでしょ?これニセモノの髪の毛なの。やんごとなきご令嬢がどうしてもお金がいるっていうけど、私はマールちゃんのおかげで、満ち足りてるでしょう?欲しいものないな〜と思ってたら、とっても髪が綺麗でね、買ってあげたの。喜んでたわ!」
聞けば目の玉飛び出るほどの買い取り価格だった!ナターシャねーさん(にーさん?)太っ腹!
それに……これはお金の匂いがするわね。
「ふっふっふ!ナターシャ!この世には髪の毛を買い取ってもらって喜ぶ人もいれば、髪の毛欲しいと嘆いている人もいる!ヅラは商売になるわ!」
「……ハゲのおっさんのために働くのお?」
「当然そこが一番のターゲットだけど、世の中病気で髪の抜ける子供もいるわ」
残念ながら、病気の子供を神殿に置いていく親もいるので、知っている。
「人助けプラスお金儲けよ!」
「ブラボー!乗ったー!じゃあ経営戦略はマール考えなさい!私はヅラ作りと販路を準備する……ドレスショップで宣伝しての、ゴージャスな小部屋に誘導して秘密厳守の雰囲気作り……そうだ、ローズに舞台で使ってもらわなきゃ……」
ナターシャがヅラの製品化を技術的に考える間、私はもっぱら金勘定。街の床屋に声をかけて、買い取り価格を相談して、マージンは10パーセント……。
「こほん、巫女様、時間は有限ですよ」
コリンがあまりの脱線ぶりに声をかけてくれた。
「きゃー!コリンちゃん!ありがと〜!」
「うぎゃ〜!」
ナターシャがコリンに抱きつきぶちゅっと頰にキスをした!このメスライオンはコリン狙い。私よりもコリンの純潔の方が早く失われるかもしれない……思わず窓の向こうの高い空を見つめた。
とりあえず通常モードに戻り、デザインから起こして作ってもらったカーテンや壁紙を見る。
「黒白ストライプだとお葬式っぽいと思ったけれど、この「市松模様」であれば不幸感は全くないでしょう?」
「素敵な染め具合ね!でもやはりインパクト強いから、二階の若夫婦のリビングで様子を見ましょう。寝室はパス」
「子爵様の部屋は、いわゆる伝統の植物柄で、守りに入る?」
「何かしら斬新なことを期待して契約されたと思うのよね……少しは既存から外れないとね……」
「……ちょっと面白いカーテン生地持ってきたの。見てくれる?」
「見る見る!」
ナターシャがパンパンと手を叩いた。扉が開き、お弟子さんがロール状の布を持ってきて……
「……どういうこと」
お弟子さんは、いつものはにかみ屋の女の子ではなくて、緊張した顔の……兄だった。
地味な話ですが、ブクマ1000!
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次回は週末。連休なので金土日月更新予定です。
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