9 創作部だよ全員集合
11月13日(水) 午後3時40分
「久しぶり!元気だった?」
「先輩、お久しぶりです。勉強は順調ですか?」
「今日だけは、その話題禁止!」
円城と、橘麻衣の声が弾んでいる。
第二特別教室に、いつもより賑やかで、明るい空気が漂う。
9月の文化祭で引退した三年生6人が勢揃いした。
卒業アルバムのための、部活動写真の撮影だ。アルバム業者から指定された撮影時刻は午後4時20分だったが、午後3時半を過ぎた頃から続々と三年生が部室に集まってきた。
「たった二ヶ月なのに、なんでこんなに懐かしいんだろう!」
三年生たちは、特別教室を見回し、後輩たちの顔を眺めては、皆同じコメントをする。とてもいい笑顔で。
たった二ヶ月……でも、彼女たちには一昔。今、日々をそれぞれに忙しく過ごしている、ということなんだろう。
「先輩たちいないと、やっぱり寂しいです……ここでいっちょ留年するってどうですか?受験勉強もしなくて済みますよ!」
橘麻衣が、本気か冗談かわかりかねる発言をしている。結城と円城は微妙に困りながら、それでも優しい笑顔になる。離れたくない、という気持ちがまっすぐ溢れている麻衣のことが可愛いくて仕方ないのだ。
「……この時期から留年されると、担任としても顧問としても、ちょっと困るを通り越した事態になるから、俺に免じて勘弁してくれ」
三年生たちに代って応えると「えへへ」と麻衣の表情が緩んだ。
この二ヶ月、麻衣はしっかり部長を務めてくれている。
でも、三年生の前に出ると、かわいがってもらっていた後輩に戻ってしまう……自分より上の先輩に見ていてもらえる安心感は大きい。気持ちはわかるので、今日は大目に見る。
「お久しぶりです。ああーなんだか懐かしい!」
4時10分過ぎ、本番試験が直前に迫っている尾上が合流した。今しがたまで、図書館で勉強していたという。これで部員は全員揃った、と思ったところに、もう一人。
「コンニッチハー」
ドアがガラっと開いて、金髪お姉様……補助教員のシャーロットが入ってきた。集合写真に収まるつもりらしい。
……が、俺と目が合った瞬間、動きが止まった。
「辰巳先生……」
「……どうか、しましたか」
「いえ……なんでも、ない、デス」
なんだろう。何かが歯に挟まっているような、しっくりこない感じがある。
こちらを気にして、何かを話したそうな……じとっとした彼女の視線を感じる。
アルバム業者の写真撮影そのものは、ものの5、6分で終わった。
撮影が終わったあとも、部員たちは帰ろうとしない。
二ヶ月ぶりの16人体制に、まったりした空気でおしゃべりが続いている。
「……辰巳先生、少しだけ、この後、職員室で話せませんか。咲耶のことで」
いつの間にか、すぐ隣に来ていたシャーロットが、視線を前に向けたまま、小声で言った。
返事をしよう、とする間もなかった。
円城がスタスタスタ、と近寄ってきたと思うと、俺とシャーロットの間にぐい、と身体を入れてきた。
「ロッテ……内緒話とかダメだよ?先生同士は職員室でだって話せるんだから、今日はセンセイ譲らないよ?」
結城も援護射撃にきた。
「シャーロット先生、せっかくたまの創作部イベントなんで、おとなしくしていてください……顧問でもないのに入れてあげたんですから」
……なかなか言うなぁ、と思って振り返ると、シャーロットが、ぷーっとふくれていた。すっかり同じ土俵でやり合うつもりなのが若々しいというか、子供っぽいというか。