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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
終章 こころの時間_2020年3月編
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7 咲耶とロッテの夕べ

同日 11月8日(金) 午後8時 


 夕食とデザートのケーキで、ぽんぽんになったお腹をかかえて、ソファに伸びてしまった。

 このままじゃいろいろまずい。


 えい、と気合いを入れて、ころん、と前のめりに立ち上がる。

 ロッテに目で笑われてる……もう、誰のせいだと。


「……ねぇロッテ、ちょっと……部屋でいいかな」

「ん?……咲耶がそういうの、珍しいね」


 ロッテ……シャーロットは時々うちに遊びにくる。


 補助教員なので、学校の仕事は、センセイほど忙しくないらしい。お母さんのご飯を一緒に食べて、帰りが早い日ならお父さんも同席する。兄が家を出てしまっているので、食卓がどうしても静かになりがちだ。それもあってか、両親はロッテをとても歓迎している。


 ロッテは、一応社会人らしい気遣いというか、ちょっと洒落たお菓子かケーキ……ときに、それに加えてお酒を手土産にやってくる。お父さんがいると、ロッテと一緒に飲みたがって大変だ……今日はいなくて助かった。


 夕食は、お母さんの作った肉じゃがと、棒々鶏だった。


 ついついご飯を食べ過ぎそうになるところを、ぐっとこらえた……のに、ロッテがワンホール持ち込んだケーキで大変な追い打ちをかけられた。


 これは、ふくふくと積載量が増えたに違いない……卒業式で、制服がぱっつんぱっつんになったらどうしてくれるの?


 「残してもねぇ」とにこにこしながらお母さんが大ぶりにカットしたケーキを食べ終え……食べちゃった……紅茶を飲んだところで、ロッテに自室まで来てもらった。


 ◇


「……美幸さん……ね」

「……ロッテは見た?私がいるとき部室に来て、しばらく作品見て、そのまま部誌も読んでたんだけど」


「もちろん、顔は覚えてるよ。あれだけ綺麗な人なら、目立つしね。廊下で飛田先生が案内してるところを見て、何者かなって思った」


「あの人から、手紙が来たんだけど……どうしたらいいのかなって。話、聞きに行っていいのかなって」


 ロッテに手紙を見てもらう。


 読み終わるまで、本当に一瞬の短い文面。


……ロッテの眉間にちょっとだけ力が入る。表情が曇っている。


「……あのときのお話……って?詳しく聞く……覚悟?」

「……うん。ちょっとね……怖いっていうか」


 私はロッテに部室であったことを話した……文化祭の日、美幸さんが私にだけ言った言葉も。


「……住所まで調べて、話を聞かせるために覚悟を問うって……どう見ても、穏やかな話じゃないよね。咲耶がもし呼び出しに応じる、って考えてるなら……私もついていきたい。咲耶一人じゃ……ちょっと行かせたくない」


「……そんなに、心配かな?」


「美幸さんが、咲耶に言ったその言葉さえなかったら、まだよかったけど……手放しで、いってらっしゃいとは、とても言えない……従姉として、咲耶が傷つくような危険は、見過ごせないから」


 柔らかく諭してくるような話し方だったけど……ロッテの目は、厳しかった。


「一人前の大人が、高校生の女の子相手に出す手紙じゃない……ちょっとおかしな人か、それとも、他になにか狙いがあってやっているのか……どっちにしたって、心配になるよ」


 あんまり真剣なロッテの声に、そうだね、としか返せなかった。


 何かするときは、必ずロッテに言ってから、と約束をした。

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