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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
四章 山月記の時間_2019年7月編
87/118

20 準備もいよいよ大詰めです

 9月12日(木) 文化祭まで、あと2日。


 昨日の放課後から、現状回復不要の準備期間、が始まった。

 これまでは作ったものを教室の後ろに積み上げたり、廊下の隅に畳んで置いたり、という工夫でしのいでいたが、もう文化祭まで授業がなくなる。準備品を全て教室内に設置してよい、ということだ。

 大型の展示品や、巨大なパーティションなどが、続々と教室に運び込まれる。非日常に塗り込められていく環境に、生徒達のテンションも上がっていく。


 担任の3年3組の準備も、それなりに忙しくなってきた。食券の扱いに、釣り銭の準備、屋台の仕上げ……文化祭実行委員もよくやっているが、担任としての対応も必要だ。ホームルーム教室と職員室を往復しながら対応しているうちに、すっかり時間が経ってしまった。


 ◇


 午後、4時30分を回ったあたりで、クラスが一段落してきたので、部に顔を出すことにした。部誌の刷り上がりが今日だったので、3階へ上る前に一度、受付横の事務室へ立ち寄る。いつもなら、事務室カウンター前に荷物が積み上がっているはずだ……が?


 部誌の箱が見つからない。


 事務職員に声をかけて、届いたか聞いてみた。

 「あれ?辰巳先生。創作部宛の段ボールなら、昼休みに女の子たちが取りに来ましたよ。」


 部員たちは昼休みに、届いたばかりの箱をさっさと運んでいったという。ずいぶん手回しがいい……そんなに早く完成が見たかったのか、と思いつつ、3階へ上った。


 ◇

 

 第二特別教室に入りながら、部員たちに声をかける。

「みんな、お疲れ様。部誌、もうもって上がってくれたそうだね」

「はーい」

「おつかれさまです」

 口々に返事は返ってくるが、部室の中は部員それぞれ準備に取り組んでいて、空気に余裕がない。

 

 教室内の机を並べ替えて作った展示台にクロスがかけられ、テーマ別の企画展示、個人展示のゾーンにそれぞれ仕切られている。部員が手に手に見栄えを考えながら大量の作品を並べている。

 壁際には可動式の衝立が設置され、大判作品の展示を準備している。作品それぞれはもう完成しているが、展示室として部屋を仕上げる、という仕事はまだまだ途中だ。


「部誌のできあがりを見たいんだけど、どこにある?」

 近くにいた2年生に声をかけた。

「もうしまっちゃいました」

「中身の確認は?」

「部員みんなでさっきしました」

 準備の手を誰も止めずに、さらっと流されてしまう。


 困ったときの部長頼み、というわけでもないが円城に「部誌、しまっちゃった?」と、声をかけた。

 円城も仕事の手を止めず、こちらをちらりと見やっただけだ。

「今日、到着と知ってましたので、さっきみんなで上に運んで、ページの確認は済ませました。一冊350円もするので、元通りに梱包して、当日まで取り出せないように仕舞ってあります」


 特別教室の隅に設置してある、創作部用の大型ロッカー。


 明けると、当日の展示物、配布する小物などのストックが詰め込んである。

 その下に、印刷会社からの段ボール箱が見えた。ご丁寧に、梱包用の巻きラップフィルムでぐるぐる巻きにしてある。

「……ずいぶん厳重に梱包してあるなぁ」

 円城に聞こえるよう、少し大きな声で言った。

 

「うっかり取れるようにしておくと、私たちも見たくなって仕事が止まりますから。売り物なので、汚したらその分みんなで負担ですし。こうしておけば、抜き取りもできません。万一水濡れしても大丈夫です」

「俺も中身見たかったなぁ……」


 円城が背中を向けてたまま、再び横顔でちらりとこっちを見た。仕事の手は止めない。

「何をのんびりしたことを……これから、ステージリハーサルの割り当て時間じゃないですか。先生も一緒に来て、指示と監督をお願いします。部誌は当日、ちゃんと売ってあげますから」


 どうやら、当日までお預けは決定事項らしかった。


 部員たちに連れ出されるようにして、体育館へと移動する……リーダーとしての円城は、あまり甘くない。

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