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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
四章 山月記の時間_2019年7月編
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5 絢爛なる文化祭企画

 しばらく、カリカリ、しゃりしゃり、と鉛筆やペンを動かす音がしていた、と思ったら、麻衣が沈黙を破った。

「……でも、せっかくの文化祭だし……なんか、派手なことやりたいすね……最後だし」


 ん?


「3年生は最後だけど、麻衣はまだ1年あるだろ」

「いや……あの、3年の先輩方と活動できるの、最後って意味で」

「ああ。まあ……そうだな」


 ツンツンしてる麻衣に新しいことをさせて、そっちに目を向けさせるのもいいかもしれない。

「部活紹介でやった、ライブドローイングとか、またやってみるのはどうだ」

 麻衣が手を止めて、ありかも、という目でこちらを見た。

 

 一瞬、間が空いた。


「さんせーい!」

 少し離れた席で、芽衣が元気よく手を挙げた。

「私、円城部長のパフォーマンスが見たいです!」

 要求がわかりやすい。どこまでものびのび自由な妹キャラだ。

「どうせなら、衣装とか作って、めちゃめちゃ凝ったの、やるとかどうですか……部長なら、絶対ウケると思うんですけど……っていうか、私がすごく見たいです。みなさん、見たくないですか」

「部長のは見たいかも……」

 そこここから声が上がる。

 

 華やかなビジュアルという点では、文句なし。校内でも有名人の円城部長である。本気で着飾って、パフォーマンス…と考えると、女子にも魅力的に映るらしい。


 ステージに立てば、宣伝効果抜群なのは間違いなかったのだが、今年の1月から3月の下旬まで、円城はアメリカへ留学していた。

 彼女が帰ってきたときには、もう部活紹介の準備も進んでいて、2年前から恒例になったライブドローイング――巨大な絵を、舞台上で音楽に乗って描く――の描き手は、画力でピカイチの結城が引き受けていた。

 だから、円城はマイクをもって、舞台端で司会を務めたのだ。


「結城先輩のも凄かったですけど、せっかくだから円城部長の見たいですよ。先輩たち、文化祭終わったら、引退ですよね……最後のチャンスじゃないですか!」


 いつの間にか、それぞれに創作していた部員たちが、机を内側に向けるようにして、話し合い体勢に移行してきた。


「でも、部長だけじゃ物足りないよね。何セットかやりたいよね」

「見てる方の飽きを考えると、3セットくらいまでじゃない?」

「部長と一緒にステージ出るとか、あたしじゃ罰ゲームだ……衣装とかの裏方でいいわ」

 こういうとき、学年を問わずに意見が飛び交うのは、うちの部のいいところだ。


「でも、結城先輩もまた出てほしいよね。お客さん、絶対画力でビビるし」

「私は、春やらせてもらったから……今回も出ちゃったら申し訳ないかな……」

「じゃあ先輩、コンビで、とかどうですか……各学年から最低一人ずつ出るとかなら……うちら2年生からエースの麻衣と組んで、とか」


 小柄で色白美人の結城と、ボーイッシュにきびきび動く麻衣のペア……面白そうだ。


 ……と、麻衣の方を見ると、彼女は目を白黒させて、慌てている。

「え?……結城先輩と……?え?ちょっと……それは……」

「ペアじゃ気が進まない?」

 円城がにこやかに訊いた。

「いや……そんなことはなくて……ほんとにイヤじゃなくて……」

少し間が空いた。

「結城先輩とステージ……ぜひ、やりたいです。やらせてください」


 結局、作戦会議の結果、1年生の多人数チームでにぎやかに開幕、3年の円城部長ソロで魅せて、フィナーレは結城&麻衣の実力派ペア……という3組のステージ企画にまとまった。


「辰巳先生、家庭科の先生に、衣装作りについて事前に話を通しておいてもらえますか?私たちで直接、指導いただけるようお願いにいきますので」


……もう衣装作りの指導を受ける段取りまで。

 円城部長のリーダーぶりは、なかなか板に付いている。

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