7 クールな円城とウェットなエリス
6月12日(火)
「エリス!あああもう可愛い!!おねえさんがダメな豊太郎なんて忘れさせてあげるのに!」
……円城咲耶が不穏な発言をしているが、気にしてはいけない。
彼女は決して同性愛者ではない。もっと貪欲な「好きなものなら性別なんて関係ない」系である。可憐な容姿の彼女が、紙の上に可憐な少女エリスを描く……さぞや優雅であったろう。
描かれた少女が服をちゃんと着てさえいれば。
「うふふふふ。かわいい。もっともっと恥ずかしい姿にしてあげる」
エリスは服をまともに着せてもらえていない(全裸ではないのがミソだ)。
円城によれば、はだけ乱れた着衣こそが素晴らしいのだという。
理解できなくはないが、教師として理解を示したら負けである。
見る間にエリスはより一層「ウェット」にされていく。
この入魂モードに入ったら円城はしばらく止まらない。
「……おまえさ、ここ高校の部活動ってわかってる?」
「先生は芸術とエロティシズムの関連について否定するのですか?」
「節度はあるべきだと思うぞ」
「汗をかくことが淫靡なんですか?じゃあ運動部はすべて淫靡ですね」
「その絵、水気は全部 汗 だというんだな。ほぅ」
「汗以外に見える先生こそ、いかがわしけれ……恥を知ってください」
蔑むような色を見せた円城の目が、柔らかく溶け、フフッと鼻で笑う。
こいつは本当に高校2年生なのか?
激情に身をよじるエリスは、ほぼ鉛筆でラフが仕上がっている。
「ところで先生、琴美は大丈夫だったんですか」
「……ん?知り合いだったか?」
「まあ、ちょっと。1年生のときは同じクラスでしたし」
「そうか。とりあえず病院で順調に回復してるよ。
詳しく話せと言われると困るが……」
エリスのラフにひと段落つけた円城が手を止める。声を少しひそめていう。
「琴美、最近元気なかったの、気づきませんでした?」
「彼女のことは、作品ばかり見てしまってたな。華々しくいろいろ入賞してたし。内面的なことは正直……なんかあれば教えてもらえると助かる」
円城との関係には少々事情がある。
他の生徒とはこんな話し方はしない。
ある事件をきっかけに、他の生徒とは違う、特殊な距離感が生まれた。
「……そうですね。恋愛や将来でいろいろ悩んでた、ってことくらいでしょうか。今話せるのは」
「今話せるのは?」
「彼女にとってどう結末がつくのがいいか、わかりませんから。彼女が望めば、先生の耳にも話が届くと思いますし」
「……わかった。どうしてもってときには力を貸してくれ」
……頭を切り替えて部活の顧問をやることにする。
今日も創作部は皆勤で作品制作真っ最中だ。
「……で、円城はこのエリス、どこに出すんだ」
「部誌に載せていいというなら載せますよ」
「それ以外で」