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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
一章 舞姫の時間_2018年6月編
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7 クールな円城とウェットなエリス

6月12日(火)


「エリス!あああもう可愛い!!おねえさんがダメな豊太郎なんて忘れさせてあげるのに!」

……円城咲耶が不穏な発言をしているが、気にしてはいけない。


 彼女は決して同性愛者ではない。もっと貪欲な「好きなものなら性別なんて関係ない」系である。可憐な容姿の彼女が、紙の上に可憐な少女エリスを描く……さぞや優雅であったろう。


 描かれた少女が服をちゃんと着てさえいれば。


 「うふふふふ。かわいい。もっともっと恥ずかしい姿にしてあげる」

 エリスは服をまともに着せてもらえていない(全裸ではないのがミソだ)。


 円城によれば、はだけ乱れた着衣こそが素晴らしいのだという。

 理解できなくはないが、教師として理解を示したら負けである。

 見る間にエリスはより一層「ウェット」にされていく。

 この入魂モードに入ったら円城はしばらく止まらない。


「……おまえさ、ここ高校の部活動ってわかってる?」

「先生は芸術とエロティシズムの関連について否定するのですか?」

「節度はあるべきだと思うぞ」

「汗をかくことが(いん)()なんですか?じゃあ運動部はすべて淫靡ですね」

「その絵、水気は全部 汗 だというんだな。ほぅ」

「汗以外に見える先生こそ、いかがわしけれ……恥を知ってください」


(さげす)むような色を見せた円城の目が、柔らかく溶け、フフッと鼻で笑う。

こいつは本当に高校2年生なのか?

激情に身をよじるエリスは、ほぼ鉛筆でラフが仕上がっている。


「ところで先生、琴美は大丈夫だったんですか」

「……ん?知り合いだったか?」

「まあ、ちょっと。1年生のときは同じクラスでしたし」

「そうか。とりあえず病院で順調に回復してるよ。

詳しく話せと言われると困るが……」


 エリスのラフにひと段落つけた円城が手を止める。声を少しひそめていう。

「琴美、最近元気なかったの、気づきませんでした?」

「彼女のことは、作品ばかり見てしまってたな。華々しくいろいろ入賞してたし。内面的なことは正直……なんかあれば教えてもらえると助かる」


 円城との関係には少々事情がある。

 他の生徒とはこんな話し方はしない。

 ある事件をきっかけに、他の生徒とは違う、特殊な距離感が生まれた。


「……そうですね。恋愛や将来でいろいろ悩んでた、ってことくらいでしょうか。今話せるのは」

「今話せるのは?」

「彼女にとってどう結末がつくのがいいか、わかりませんから。彼女が望めば、先生の耳にも話が届くと思いますし」

「……わかった。どうしてもってときには力を貸してくれ」


 ……頭を切り替えて部活の顧問をやることにする。

 今日も創作部は皆勤で作品制作真っ最中だ。


「……で、円城はこのエリス、どこに出すんだ」

「部誌に載せていいというなら載せますよ」

「それ以外で」

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