16 ある日の「竹取物語」授業 結
「前回の授業で、かぐや姫と帝の交流が3年、と言ったが、かぐや姫、という作品は3が全体の基調になっている。最初から見ると、竹林で発見したときサイズが「三寸」、一人前になるまでが「三ヶ月」、お披露目の宴が「三日」というように。
他にも、仏の御石の鉢の偽物をもってくるところで3年かけていたり、玉の枝の偽物の制作期間が「千余日」……3年だったり。ついでだが、宝物を要求される求婚者は5人だが、これも、元々3人だったものに2人後から書き足されているのでは、という説がある」
筋書きだけ見ると、あっという間に大きくなって、月に帰ってしまう印象をもつ人が多い竹取物語だが、作品中は結構な時間が流れている。
「お披露目をして大量の男が押しかけるようになってから、5人の求婚者に絞り込まれるまでの場面も、季節の移り変わりの中で数を減らしていく。これも明記されてはいないものの、やはり3年程度は見るのが妥当では、と考えられる。
すると、育つまでに数ヶ月、男が通ってくる3年、求婚者が宝物を取りに行く3年、帝と交流する3年……と、全体では10年くらいの時間が流れているわけだ」
3ヶ月で身体は大きくなったかぐや姫だが、最初は情の欠片もないような、人間味のない存在だった。
それが、多くの男を苦しめ、ときには死なせもし、後に帝と心を通わせ……10年かけて人間らしさを手に入れた。
そして、物語はいよいよ大詰め。有名な月からの迎えである。
すっかり人間らしくなったかぐや姫のキャラクターが読みどころだ。
「かぐや姫にとって、月へ帰ることは全く喜べなくなっていた。8月15日に迎えが来る、と言って日々泣き暮らすようになってしまう。
おじいさんはなんとしてでも守ってやる、と息巻いて、帝へ事情を話し、帝はそれに応えて大軍勢を差し向ける。かぐや姫の屋敷は、総勢2000人に警備される。すっかり大スペクタクルだ……映画のスクリーンで観たくなるね」
迎えのシーンは、よく名場面として語られる。
月からは迎えの人々が雲に乗って地上へ降りてくる。
「迎えの者たちの振る舞いから察することができるが、かぐや姫、という存在は月世界でも相当に身分の高い姫君と思われる。月から来た一団には、王らしき男が乗る車もある。それに乗っている者が言うには、彼女は 『罪を犯した』 ことで、刑罰として 『穢らわしい』 地上に送られてきた。そして今、その罪が消えたので迎えにきた、という」
かぐや姫を守るために閉ざした門も、戸もすべては勝手に開き、2000人の軍勢は放心して動けなくなる。誰一人、傷つくことなく、完全に無力化される。
月の人々の能力は、地上の者とは根本的に格が違っている――神のような絶対的な力である。逃げようがないことを悟ったかぐや姫はせめて見送ってほしい、と言って、おじいさんとおばあさんに書き置きと、形見の着物を残す。
「そして、ついにかぐや姫は天の羽衣を着るように指示される。これは重要な、物語の幕を引くアイテムだ。かぐや姫は 『これを着たら、心が違ってしまう』 といって、しばらく待ってくれるように願い出る」
月の迎えに早く着なさい、と急かされながら、帝へ最後の手紙を書き、かぐや姫も舐めた不死の薬――地上の穢れを浄化する効果もある――の残りを、帝への置き土産にする。
「羽衣を着れば、すべての記憶をなくし、悩みも心配も、死さえもなくなって、人間を超越した存在に戻る。かぐや姫は、そんな存在に戻ることが辛い……人間として大切にされ、心を得てしまった……人の情を知ってしまったからだ。」
かぐや姫が羽衣で心を失って月に去った後、おじいさんとおばあさんは気落ちして寝込んでしまう。帝も不死の薬を「かぐや姫のいない世界で長生きして、何の意味があるか」と言って、月に一番近い場所……富士山の頂上で処分させる。
こうして、竹取物語のおはなしは終わる。
◇
授業を終えて、シャーロットのところに戻った。
「悩まない月の人になれるのに、それを悲しめるかぐや姫が、うらやましいです……」
彼女はさめざめと涙を流していた。
「竹取物語」の授業パート、これにて終了です。
意外と知られていないディテール満載で、
日本最古の物語…とは思えないSFっぷりが興味深いですね。