表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
三章 竹取物語の時間_2019年1月編
51/118

6 新年会は挑発的に

1月11日(金) 午後7時


「乾杯!」

 一斉に、グラスを掲げた。


 学校から、最寄り駅まで徒歩12分。

 最寄り駅の裏手、ちょっと目立たないたたずまいの、酒と肴の店「山頭火」

 名前のとおり、いい感じに力の抜けたメニューと居心地の良さが売りだ。


 職場の飲み会に使っている定番飲み屋である。


  ◇


「辰巳先生、今年もよろしくお願いします」

 もう何回目になるか、飛田先生もカウントしていないだろう。

 すっかり上機嫌の飛田先生が、繰り返しグラスを合わせてくる。


「よろしくぅ!」

 グラスを合わせたところに、山脇先生も加わって、3人で何度目かのグラスを鳴らせた

「ワタシも、一緒に。よろしくオネガイします。ミナサン、もっと気軽に、シャーロットって呼んでくださいネー」

 ガチャン!

 飛田先生のとなりにいるのはシャーロット。

 さっきから、いい飲みっぷりで、ガンガンジョッキを空けている。


 やはり、アルコール分解酵素が遺伝的に強いのか、なんて考える。大量に飲んでいるはずなのに、顔色は白いままだ。ただ、正気を保っているのか、というと、少々怪しくなってきている。


「ヤマワキ先生、タツミ先生はね!ワタシのはずかしーい秘密、知ってるンデスヨー」

 酔いのまわったシャーロットは、少々暴走気味だ。初めての飲み会、しかも、彼女から見たら外国人ばかりの中にいて、全く物怖じしない。大したものである。


「なんですかぁ、シャーロット先……シャーロット、辰巳先生だけ知ってるとか、許せないですよぉ。辰巳先生、ただでさえ、モテモテですからねぇ。このイロオトコぉ」

山脇先生が人差し指で、こめかみのあたりをぐーっと小突いてくる。


「ホワァッツ?モテモテ?」

アハハハ、と笑って、シャーロットが山脇先生の耳元に口を近づける。


「あのね、ワタシ、最初の日……お、も、ら、し、したンです」

「えええええ」

 山脇先生が、ひどく取り乱してシャーロットの顔を見つめ返す。

「シャーロット先生!なんてことバラすんですか」

 飛田先生があたふたして暴走を止めようとする。


 シャーロットは、俺の方へ乗り出して顔をちろり、と見つめ……妖艶な笑みを浮かべた。

「辰巳センセ?飛田センセに教えましたねー? コートの下、どうなってたと、思いました?……イマジネーション?」


 白磁器のようななめらかな肌に、光をたたえた深く青い瞳。ひどく品のない話題のはずなのに、ぞっとするくらいに蠱惑的だ。


 真っ直ぐ、奥まで差し込まれるような視線が正面にある。

 思わず息苦しさを感じて、唾を飲み込んだ。


 ぱんぱんぱん。


 大きく手を叩く音がする。

「シャーロット先生、指導教員として、イエローカードです!そこまで。もう飲んじゃいけません!」


 ふふん?


 きょろっと目を動かして、笑みを浮かべたシャーロットが、背後の飛田先生の方を見る。

 飛田先生が、いけないことをした妹を咎める姉のような風体で、腰に手を当てている。


 くすっとシャーロットが笑った。

「どうしてですかー?私の恥ずかしい話、楽しくないですかー?」

「いやー楽しいですよ。もっと聞きたいなぁ」

 すぐさま答えたのは山脇先生だが、飛田先生に譲るつもりはないようだった。


「山脇先生も酔いすぎです。こんな若い娘さんが口にしちゃいけない話題です。しらふになったら、きっと気まずい思いするんですから……シャーロット先生、恥ずかしくて学校これなくなったらどうするんですか!」


 数瞬の沈黙。


 シャーロットが、目を細めた。

「飛田先生は、あー、なんでしたけ。オセカイ?ですねー。それに、他人ギョーギ!」

 そのままケラケラと笑う。


「いい加減にしましょうね、シャーロット先生。今日は飲みすぎましたね」

「そんなこと、ないデスよー。まだまだ、いけます。邪魔するのはぁ……あーわかった。辰巳先生取られて、ヤだからデスね?」

「なっなっなっなに、何を」

「でも、飛田先生?私より、生徒に取られる心配したほうがイイ、聞いてますよ」

 今度は絡み酒モードか。


「な、何を言ってるんですか。辰巳先生が生徒に手を出すわけ……」

「……そうなんですか?」


 シャーロットは、にやーっと笑う。

 頭をくるり、と巡らすと、俺に目を合わせた。


「じゃあ、サクヤ……エンジョウさんもちゃんと振ったンデスね?辰巳先生?」

 

 ――!


 思わず、絶句してしまった。



「当たり前です。辰巳先生はちゃんとしてる人です。生徒に手を出すとか、あり得ません。シャーロット先生、もう本当に、おしまいですよ! これ以上悪ふざけしたら、本当に怒りますからね!」


――遠くに聞こえる飛田先生の声。

 助かった、と思った自分がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓いただいたファンアート、サイドストーリーなどを陳列中です。
i360194
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ