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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
三章 竹取物語の時間_2019年1月編
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5 ある日の「竹取物語」授業 一

――いまはむかし、たけとりの翁と いふものありけり。野山にまじりて 竹をとりつつ、よろづのことに つかひけり。名をば、さぬきのみやつことなむ いひける。


 「平安時代の初期に成立したと言われる、日本で最も古い物語文学、竹取物語だ。中学校で冒頭部分などは学習した人も多いと思う。全体を読むと相当長い作品なので、それぞれの部分ごとに、興味深い部分を取り上げながら、授業を進めていこう」


 冒頭部分で、竹取の翁――おじいさん――が竹をとって生活している。ある日、根元の光った竹があり、竹の中に三寸――約10センチほどの可愛い女の子がいるのを見つける。

 この小さな子をおじいさんは、「日頃から竹を見ているからわかる。自分が育てるべき子だ」と言って連れて帰る。媼――おばあさん――は女の子があまりに小さいので、竹のカゴに入れて彼女を育てる。

 また、この子を見つけて以来、おじいさんは竹を取りにいくと、中に黄金の詰まった竹を発見するようになる。それが繰り返され、3ヶ月後、この子が一人前のサイズに育ったころには、すっかり権勢を誇るまでに――つまり、大金持ちになっている。


「クライマックスで月からの遣いが言及するんだが、この黄金、かぐや姫の養育費として月から支払われたもの、という設定だ」


――この(ちご)のかたちの()(そう)なること世になく、()の内は暗きところなく光みちたり。翁、(ここ)()()しく苦しき時も、この子を見れば苦しきこともやみぬ。(はら)()たしきこともなぐさみけり。


「たったの三ヶ月で、10センチから一人前のサイズになってしまうだけじゃない。その美しさによって、家中が明るくなってしまう。気分が悪いのも機嫌が悪いのも、この子を見るだけで治ってしまう……あきらかに、人間ではない、()()()()()なのがわかる」


 やがて、娘は「なよ竹のかぐや姫」と名付けられ、お披露目の会が開かれる。三日に渡って宴は盛大に行われ、世の男性は広く招待された。そのあとの、男どもの様子が凄い。


――世界の(おのこ)、あてなるも、(いや)しきも、いかでこのかぐや姫を得てしかな、見てしかなと、(おと)に聞きめでて(まど)ふ。


「世の中の男共が高貴なのも貧しいのも、どうやったら会えるんだ、と噂して思い惑ってしまった。夜になっても姿を見ようとして家のまわりじゅうに張り付いている。これが「夜這い」の語源――もちろん、冗談だが、竹取物語にはこうした語源を説明する小ネタが沢山出てくる。気付いたら、チェックするようにしておこう。かぐや姫の魅力はとにかく桁外れ。男が片っ端からこうなってしまう」


――おろかなる人は、「(よう)なき(あり)きは、よしなかりけり」とて()ずなりにけり。


ただ、いくら粘っても進展がないし、言付けを頼むこともできない……で、大部分の志が半端な男は通うのを諦めていく。


「最後に、あきらめのとことん悪い5人が残る。彼らは 『ちょっと素敵な女性が』 と噂を聞いただけで口説きにいくと評判の、恋愛脳な?男たちだ」


 絶世の美女、かぐや姫の元へ、彼らは思いを途切れさせることもなく、夏の暑さにも、冬の寒さにもめげずに延々と通ってくる。


「次回は、5人の求婚者について、詳しく見ていこう。日直さん、号令お願いします」


  ◇


「国語の授業なんて、退屈じゃありませんでしたか?」

 授業の片付けをしつつ、シャーロット先生に話しかけた。

 見学したい、と言い出したので、教室の後ろで聞いてもらったのだ。


「とっても楽しく聞きました。ありがとうございます」

「もし、またいらっしゃるようなら、教科書の予備を用意しておきます。聞いているだけでは疲れるでしょう」


「助かります。それにしても、辰巳先生」

「はい?」

「かぐや姫は最初、こんなに小さかったんですね。知りませんでした」

 こんなに、のところで、人差し指と親指でサイズを示して見せる。すらりと細い指。


「ああ、竹の中にいたところ」

「それが、スリーマンスで大きくなって、周りの男のひと、みんなおかしくなって……」

「ええ。日本で最も古いSF、なんて言われてます。面白いですよね」


 シャーロット先生は、優しい目をした。

「……スリーマンスでは、きっと、心は、追いつかなかったでしょうね。何が起きてたのか、彼女はわかっていたのでしょうか……」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 竹取物語の語源解説……! あれ、冗談だったんですね……!! よく考えたら、本当のはずないのに、今まで気づかなかった……目から鱗が剥がれ落ちる感がちょっと痛いです。
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